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Ducati 851 ~元祖、スーパーバイク~

◇はじめに

ドゥカティの花形株ともいえるスーパーバイクファミリー。

レースでの勝利、サーキットにおけるハイパフォーマンスを最優先した造りで、いかにも「スポーツバイクメーカー・DUCATI」らしいモデルです。

現行機種ではパニガーレV4とパニガーレV2、過去に遡ると1098や916などがそれに当てはまりますね。

では、このスーパーバイクファミリーの祖を知っているでしょうか。

今回は、スーパーバイクの始祖・851SUPERBIKEをピックアップします。


◇WSBKで勝つために

バイクの生産を始めて間もない頃から数多のビッグレースで好成績を収め、知名度を高めてきたドゥカティ。

新たなレースであるスーパーバイク世界選手権(WSBK)が1988年から開催されることが決まると、ドゥカティは当然のごとくWSBK参戦に向け新型車両の開発に乗り出しました。

ドゥカティはそれまで空冷エンジンしか手がけていなかったのですが、このWSBKに焦点を合わせたニューマシンには、水冷エンジンを搭載することに決定。

ドゥカティ初の水冷マシンが造られることとなりました。

エンジン開発の初期段階では、従来の空冷エンジン(パンタ系エンジン)を用いて水冷化を図ったのですが、開発を進めるうちにクランクケースまわりの耐久性が不足し始めたことから、クランクケースを新たに設計。

構造的には従来のものとさほど変わりませんが、エンジンブロック自体の高強度化を達成し、よりいっそうの高出力を許容するポテンシャルをもたせることに成功しました。

フレームはパンタ系モデルから続くトレリスフレームで目新しさはありませんが、この新型車ではフレームパイプの一部が冷却水の通り道として活用されており、ここが特徴のひとつといえるでしょう(初期型のみ)。

開発が本格化して1年も経たない1986年末、ニューマシンのプロトタイプが完成します。

早速、87年の春に催されたデイトナBOTT(Battle of the Twins)選手権に出場すると、いきなりの優勝。

水冷になっても、ドゥカティの“速さ”が陰ることはありませんでした。


レース後も開発は続けられ、87年秋のミラノショーにて、ついに市販版の『851スーパーバイク』がデビュー。

851は、レース向けの『レーシング』とストリート向けの『ストラーダ』という2つの仕様が用意されました。

エンジンは、BOTTで勝った時と同じ排気量である851cc(実は748ccの試作機もあった)の水冷L型2気筒で、吸気系にはEFI(フューエルインジェクション)を採用。

また、WSBKの規則である「参戦車両は市販車を元としていること」を強く意識して、レーシング、ストラーダともに前照灯等の灯火類は装着されていました。


1988年、WSBKがいよいよ開幕します。

ドゥカティは851レーシングをベースに製作したワークスマシンを引っ提げ、またライダーに元WGPチャンピオンのマルコ・ルッキネリを招き、満を持して参戦します。

ルッキネリのテクニックと851のポテンシャルの高さが光り、シーズン中2勝を挙げることができたのですが、前例の無い新型車ということでマシントラブルも続発し、88年シーズンは年間チャンピオンを獲得するには至りませんでした(年間ランキング5位でシーズン終了)。


ドゥカティはWSBKでのチャンピオン獲得を目指し、851レーサーの進化に心血を注ぎます。

それに伴って、市販版の851もどんどん改良が施されました。

90年になると、それまでの『レーシング』からさらなるスポーツ性を追求した『851SP2』を開発。

オーリンズ製フロントフォークやレーサーライクなアルミサイレンサーが標準で装備され、また排気量が888ccへと拡大されました。

同時に『ストラーダ』のほうはタンデムシートが装備されるなど、よりストリート志向が強まり、元々あった『レーシング』と『ストラーダ』の棲み分けはよりいっそう明確なものとなりました。

その後SP(レーシング)もストラーダも年を追うごとに熟成が進み、1993年についに最終モデルとなります。

SPの最終型は『888SP5』となり、ショーワ製の特注フロントフォークやカーボンマフラーが装備されていました。

ストラーダも最終型でとうとう排気量が888ccとなり、車名も『851ストラーダ』から『888ストラーダ』へと変更されます。

運動性能を向上しつつ、格納式のラゲッジキャリアを備えるなど、利便性もさらに高められていました。

この後、後継モデルとなる916が完成したことで、851シリーズの生産は終了。

デビューから5年でドゥカティ・フラッグシップの座を降りることとなりました。


◇おわりに

空冷エンジンばかりを造っていたドゥカティにとって、水冷エンジンを搭載した851の登場は“新時代の幕開け”だったといえます。

851の登場で『スーパーバイク』という製品チャンネルが確立され、またレースシーンにおいても、1991年と92年に改良版の888がワールドチャンピオンを獲得したことで、ドゥカティの人気および知名度はいっそう高くなりました。

851は「ドゥカティのスーパーバイクは速い」というイメージを世間に浸透させることに成功した、偉大なモデルなのです。

長きにわたってドゥカティのスーパーバイクたちがこれほどまでに愛されるようになったのは、851の存在があったからに違いありません。

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