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釘が抜かれた板

喜八の夢に仏様が現れて言いました。
「お前は今まで多くの人々の心を傷つけけてきた。そして、ついに今日で9999人に達した。あと1人でも傷付けたら、罪を償うためにお前の命は絶たれるであろう。しかし最後のチャンスをあげよう。家の前に9999本の釘が刺った板が置いてある。その釘の数はお前がいままで傷つけた人々の数だ。明日から人から感謝される毎に、釘は一本ずつ減っていく」

喜八は死にたくない一心で、善い行いをするようになりました。
はじめて人から感謝された喜八は、今までに感じたことのない不思議な気持ちになりました。
「これが感謝されるということか。何故かわからないが胸の奥が温かくなってくる」

喜八は感謝されることに喜びを感じるようになりました。
数年して、喜八の夢に再び仏様が現れました。
「よく人のために尽力した。今日で999本の釘は全てなくなった」

釘の数のことなど途中からどうでもよくなった喜八は、お仏さまに言われて最初の約束を思い出しました。喜八は善い行いを続けた自分を少し誇らしげに感じました。

そんな喜八に仏様は言いました。
「お前はすっかり改心し、罪を償った。しかし板をよく見てみなさい。確かに釘は無くなったが、そこには無数の”穴”が空いたままだ。釘は抜けても、一旦空いた穴は塞がらない。今の自分に満足することなく、これからはその穴を塞ぐことに精進しなさい」

喜八は改めて己の犯してきた罪の深さを知り、さらに善行を続ける日々を送ろうと決心しました。

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