臨時株主総会の結果を受けて

5月10日行われた臨時株主総会において、本件株式交換議案は可決されました。臨時報告書によれば、その賛成率は86.7%です。一見すると高い賛成率に見えますが、実態を見ると、4割を超える一般株主の方が本株式交換に反対したと推測することができます。86.7%の賛成なのに4割以上の反対?何言ってるんだ?と思うかもしれませんが、それは数字のマジックです。議決権行使者の属性を見ながら、一般株主だけの賛成率を推測してみましょう。

まずは臨時報告書から。

画像1

これによれば、株式交換承認議案の議決権行使数は賛成数20414個反対3126個、合わせて23540個になります。

この賛成票の中には、川崎汽船とその関連会社の票も含まれているので、これらを除外して考えます。川崎汽船は本株式交換で利益を得る立場であり、また、その関連会社は親会社の決定に従属せざるを得ないと考えるからです。

川崎汽船の有価証券報告書によれば、関連会社は

画像2

とのこと。

各会社の議決権数は

画像3

なので、これを賛成数から除外すれば、一般株主だけの純粋な賛成数がわかります。

また、近海汽船の現役員と従業員持株会の議決権数は

役員議決権数

です。なお、近海汽船役員の保有する株は、役員の在任期間に比例して増加しているので、純投資ではなく報酬の一部として付与されたものと推測されます。

役員議決権推移

純粋な投資ではなく、報酬の一部として受け取ったものであれば、親会社の意向に反してまで積極的に値上がり益を狙うインセンティブは働かないのではと考えます。また、従業員持株会は会社の決定に対し従属的であるとの考えから、これらの議決権数も除外して考えると

本議案賛成数 20414  から

親会社及び関連会社の議決権数 15121  および

役員および従業員持株会の議決権数 911  を引くと、

利害関係を有さない株主からの賛成票は4382票だったということになります。(現役従業員やOBの方の議決権数もこの中に含まれると思われます)

反対票は3126票だったので、反対率は3126/7508で、一般株主の本議案の反対率は41.6%ということになります。

こうして見ると、多くの株主の方が本議案に反対していたことがわかります。

参考までに、近海汽船が交換比率算定の根拠として比較対象とした株式交換事例について、それぞれの賛成率をまとめてみました。

賛成率

株式交換による完全子会社化は賛成率が非常に高いものであることがわかります。このような傾向がある中で、本件議案の賛成率が86.7%と上記事例の中では突出して低かったことを、会社側は重く受け止めるべきでしょう。

最後に、このように多くの株主の方がおかしいと声を上げ反対票を投じたことは、少数株主の権利を蔑ろにしようとする支配株主への牽制に大いに役立つ意義のある票であったと思います。聡明な川崎近海汽船の株主の皆さんに拍手を送ります。

また、メールや掲示板で感謝の声を伝えて下さった株主の皆さん、ありがとうございました。私自身のためにやったことが、私だけでなく誰かのためになったのだと思うと、どうすれば資料が見やすくなるかを考えて悪戦苦闘した夜も、資料印刷のために土砂降りの中をコピー用紙2500枚分を抱えて歩いた肩や腕の筋肉痛も、資料をひたすら折って封筒に詰め続けた指の痛みも、全てが良い思い出となりました。

この意義のある少数株主の声を消さぬよう、私は今後も戦っていきます。

最後に、私の考えに賛同し協力してくれた友人や先輩方、ツイッターのTLの方々、弁護士の先生、そして何より嫌な顔一つせずにあらゆる協力をしてくれた妻に、心から感謝いたします。

佐々木保典

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?