川崎近海汽船の企業価値を高めるために

私が近海汽船の株式を購入したのには以下のような理由がありました。

キャピタルゲインに関しては、市場が近海汽船の魅力に気づかなければ実現しないと考えていました。近海汽船の魅力を市場に気付いてもらうにはどうすればよいか。業績が改善し、株主還元を強化すればそれは達成されるだろうと私は考えました。

近海汽船の業績をさらに伸ばすには、近海部門の赤字縮小と、OSV部門のリスク低減が必要でした。

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まずは近海部門についてです。

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11年度から19年度に亘って、近海部門は合計70.9億円の営業赤字を計上しています。また、その間の減損損失と用船契約解約金の合計は82.7億円にも上ります。この約154億円もの出血を止めることができれば、近海汽船の企業価値は飛躍的に高まります。(特別損失の内訳は開示されていないため、これらの損失は近海部門によるものとして論じています。内航部門は安定した利益を計上しているため、減損等は生じづらいと考えるからです。私の認識が間違っていましたらご指摘ください。訂正いたします。)

そこで、この巨額の損失の原因には投資意思決定プロセスに問題があると考え、より慎重な判断のもとに意思決定がなされるよう、これらの損失に対する経営責任を明確化する仕組みを作るよう提案しました。20年6月の株主総会でのことです。

私が提言を行った20年6月の時点では、近海部門の収益は改善傾向にありました。これは経営陣や従業員の皆さんの努力の成果であり、また、度重なる減損や用船契約解約金による、コスト低減効果によるものでもあるでしょう。私の提言は一見遅きに失したように見受けられますが、しかし、今後また巨額の損失が発生しないような仕組みを作るよう提言することには、一定の意義があったのではないかと考えています。

次に、OSV部門についてです。

私はこの事業への参入を否定的に見ていました。なぜなら、親会社である川崎汽船がこの事業から撤退したがっていたからです。

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近海汽船がオフショアオペレーションを子会社化しOSV事業に参入したのが2017年4月ですから、まさに川崎汽船がオフショア事業で事業構造改革とコスト削減を考えていた時期と重なります。同じグループ内で相反する経営判断が行われたのはなぜでしょうか。

不服ながらも、今後活発化すると見られる洋上風力発電所の開発に当該船舶が使えるとのことで、この意思決定を消極的に許容する事はできました。確かに洋上風力発電所の開発は日本において重要であり、事業の拡大が見込めるだろうと。そして、洋上風力発電所の開発事業への参入を予見しているならば、会社としても当然に人材・技術等の蓄積は行っているだろうと期待していました。しかし、本件プレスリリースにはこのように書いてあります。

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私としては、オフショア支援事業から完全に撤退した川崎汽船の方が、日本におけるオフショア支援事業に参入するにあたり、子会社の近海汽船の経営資源を必要としているのではないかと考えています。

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事実、21年6月に設立されたケイラインウインドサービスにおいては、その事業内容は近海汽船のOSV部門の事業内容と変わりなく、運航Fleetは近海汽船のOSV部門が保有していた船舶です。つまり、「これまでと変わらないサービスを、これまでと変わらない船舶で」提供するわけです。この合弁によって利益を得るのは川崎汽船であると考えるのが自然でしょう。

私が近海汽船へ送付した質問書の2は、このような背景を根拠としたものです。

ここで、改めて近海汽船の部門別営業利益のグラフを掲載します。

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私の懸念した通り、20年度にOSV部門は大幅な赤字に転落し、21年度も4.5億円の赤字を計上予定です。洋上風力発電所の開発がまさにこれから活発化する、というこのタイミングでの買収は適切なのでしょうか。我々少数株主が引き受けたのはOSV部門の市況変動リスクのみであって、洋上風力発電の活発化によるリターンは享受することができません

少数株主と支配株主は、一部においては利益相反の関係にありますが、当該企業の成長は共通の利益です。その共通の利益が達成されそうなこのタイミングで、不当に低い交換比率で近海汽船が買収されることは断じて許容できません。

私は、株主として許される範囲内で近海汽船の企業価値を高めるための提言を行い、それが実行されるよう適切な監視をしながら、近海汽船の企業としての成長を期待し応援していました。それが実を結び、まさに今から近海汽船の企業価値が高まるというタイミングで、その果実の全てが川崎汽船に奪われようとしているのです。

私の望むことは次の二つのうちのいずれかです。

買収されることなく、上場を維持することで近海汽船の成長の果実を受け取る機会を得るか、「適正な価格」で買収されることです。

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