本件買収が妥当だとする意見への反論

昨日の私のブログ記事に対し、このような考察記事が掲載されていました

川崎汽船による川崎近海汽船の完全子会社化|買収プレミアムの分析

個人投資家としてはこのような乱暴な議論で本件株式交換比率を正当化するかのような言説が広まることはとても残念です。これについて反論しながら、本件子会社化の問題点を改めて炙り出してみましょう。

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この記事によれば、株式交換と公開買い付けでは、付与すべきプレミアムの水準が変わるとのことでした。つまり、買収者サイドに立ってみればプレミアムが低く済む株式交換を買収手法として選ぶインセンティブが働きます。だからこそ「訴訟などに発展しやすいというリスク」があるのだと。その認識していたリスクが顕在化しているのが今です。

株式交換比率に納得していないのはもちろんですが、買収手法として株式交換を選んだ理由が不合理であると私は考えています。(後述)

次に解散価値について。

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具体的に例示することなく「0.5倍前後を推移している業界もふつうにあります」というのは議論として成立しません。例えば世界中でEVの普及が進む中、EV市場で出遅れてしまった日本の自動車産業はPBR1倍割れが常態化していますし、低金利による運用難とスマホアプリ等による個人間の送金手段の多様化等で先行きが不安視される銀行業界も低PBRで評価されるのが常態化しています。しかし、これらの業界においても、収益力の低い会社と高い会社では、PBRで2倍程度の開きがあることは「ふつう」にあります。それらの個別案件について考察して企業価値と現在の株価とのギャップを探し出すのが我々投資家の仕事です。また、同じ海運業界にある川崎汽船はPBR1倍で評価するけれども近海汽船は0.4倍で評価する、というのはそもそも矛盾することになります。近海汽船の解散価値を額面からディスカウントする必要はないと考える理由は、昨日のブログをご覧ください。

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ここでいう「一般的な企業買収」とはどの案件を指すのかわかりませんが、解散価値を考慮せずに、尚且つ株式交換という手法が適切であるとの前提に立てばそのような論法で正当化はできるのでしょう。(私はその考えに与しませんが)

ここで、本件株式交換のプレスリリースによれば

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買収後にシナジーが得られるのだから株式交換という手法は適切であるとのこと。

ここでシナジーとは

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出典:https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/sa/synergy_anergy

確かに、100と100が統合して250や300になるのであればこれは理解できます。しかし、本件においてはこれは当てはまりません。なぜなら、企業規模が違いすぎるからです。川崎汽船の時価総額は約6600億円、近海汽船の時価総額は約120億円、これだけ企業規模の異なる二社が統合したとしても、そこから得られるシナジーは小さいと考えるのが自然です。また、川崎汽船はコンテナ運賃の下落という大きなリスクに晒されています。コロナ禍による混乱がコンテナ運賃の高騰を誘発したのだから、コロナが収束するとともに運賃も正常化していくと考えるのがふつうです。得られるシナジーの小ささに比べ、非常に大きな株価下落リスクを抱えなければならないのが本件株式交換の問題です。

以上のように、本件株式交換でプレミアムが発生しないのは当然である、という主張はかなり一方的であると私は考えます。上記ブログ記事は、プレミアムが発生しない理由については本文中で強く主張しますが、プレミアムが発生する可能性については下段の脚注でのみ小さく論じており、かなりバイアスのかかった記事である印象を受けます。

また、上記のブログ記事とは別に、このような反論がありました。

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PBR、配当利回り、2年後のPERの全てにおいて川崎近海汽船が割安なので、この反論はそもそもの企業価値の分析が間違っています。

私としては本件株式交換を正当化する理由はないと考えていますので、この場を借りて反論させていただきました。私のこの考えが多くの方に支持されることを願っております。

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