「どんなに英語を学習しても、英語を話せるようにはならない」〈英語学習〉の意外な落とし穴とは?
「英語力」とは何か——?
この問いに、自信を持って回答できる人は一体どれくらいいるのでしょうか。
・英語のニュースをすいすい読める力。
・正しい英文法を使ってビジネスメールを書ける力。
・相手と意思疎通をして目的を達成する力。
…果たしてそのどれが「英語力」を指しているのでしょう?
今回の記事の目的は、たったひとつ。日本人の英語学習者の多くが抱いている「英語力」に関する誤解を解くことです。
ヒントは…〈野球〉にありました。
英語力と英会話力は、別物のスキル
下又
:福田さんは「英語学習難民」って知ってますか?
福田
:どういった意味なんでしょう?
下又
:「英語学習難民=さまざまな英語学習を渡り歩く人たち」を指します。この人たちは本気で英語の勉強をしているので、時間もコストも惜しみません。いろんなサービスに詳しいし、実際に試してみたりもしています。
福田
:でも、そんなに本気で学習しているんだとしたら、何で難民になるんでしょう?上達しないから?
下又
:いい質問ですね。少し切り口を変えて、考えてみましょうか。
福田さんは、日本人の英語学習者がイメージする〈英語力が高い人〉って、具体的にどんなことができる人だと思いますか?
福田
:一般的には〈TOEIC®L&Rでハイスコアを取れる人〉でしょうね。あとは〈いつでも誰とでも英語でコミュニケーションを取って意思疎通できる人〉というイメージも、あるかもしれません。
下又
:その答えの中に、今回お話ししたい重要ポイントがありました。
実は、前者が持っているのは「英語力」で、後者は「英会話力」です。それぞれ異なるスキルを必要とする別物のスキル。
そしてこれこそが英語学習難民が生まれる要因であり、多くの日本人が誤解している大きな問題点なんです。
福田
:なるほど…
下又
:そもそも、英語学習難民になる本質的な理由は、英語学習における目的を達成できないからです。
つまり、どれだけ一生懸命学習しても、身につけたい能力が身につかない。なりたい自分になれない。だから、英語学習を終われないし、手ごたえのある学習法やサービスを求めてさまよってしまうわけですね。
私は英語力と英会話力についてこのように定義しています。
福田
:あ、英会話力に必要なスキルには、英語力そのものが含まれている…
つまり「英語力が高くても、英会話力が高いとは限らない」ということですね。
下又
:そういうことです。
どんなに語彙や文法やヒアリングスキルを高める学習を重ねていっても、意思疎通がスムーズにできる英会話ができるようになることはありません。
その一方で、福田さんがおっしゃった通り、多くの日本人学習者は「英語の学習を頑張れば、いつか英語での意思疎通がスムーズにできるようになる」「文法の知識を身につけて語彙力を上げれば、英語で話すのは難しくなくなってくる」と誤解してしまっている。
その結果、語彙や文法の知識をどんどん増やしながら「全然英語を話せるようにならないから、別のサービスを試そう」と、終わりのない英語学習の迷路に入り込んでいくのです。
過去の経験にとらわれてはいけない
目的の設定が〈学習の分かれ道〉
福田
:でも、そもそもなぜそんな誤解が生まれたんでしょうね。
下又
:いわゆる学校教育、特に十数年以上前の学校教育による刷り込みの影響は大きいと思います。
今、社会人になっている世代の人たちが英語を学ぼうと思ったら、まずは文法を理解し、語彙を増やし、それから実践へ…という順番をたどろうとするでしょう。
英語学習の典型的なプロセスですが、それは学生時代にそういった経験をしてきたからです。たとえそれが、英会話力を高める学習法ではないとしても。
但し、補足しますが、私は学校教育も英語学習も、否定するつもりはまったくありません。私が伝えたいのは「英語力と英会話力は別物であり、だから学習方法も別物だ」という事実だけです。
福田
:いわゆる英語力を高めることを、学習の目的にしている人もいるでしょうし。
下又:そうですね。
たとえば「英語の論文を、正確かつ速く読んで理解できるようになりたい」というのが学習の目的であれば、英語力を高める学習が必要です。正確な文法知識があって語彙力が高いほど、速く読んで理解できるようになりますから。
福田:要するに目的次第っていうことですよね。
“英語で何をしたいのか?”をクリアにしなければ、そのために何をするべきかもクリアにならない。英語を話せるようになりたいのであれば、英語を話す練習をしなければ上達しない…
下又
:英語でスムーズに意思疎通ができ、何かしらの目的を達成することを目指すのであれば、英語力の強化だけでは、目的達成できないということですね。
福田
:目的の設定が、適切な学習法を選ぶための重要なポイントなのだとわかりました。
野球がうまくなりたいのか、野球解説者になりたいのか
下又
:そもそも英語は実技科目です。実技である以上、やってみなければ理解できないことがたくさんありますし、上達したいのであればたくさん練習しないといけない。
野球に置き換えると、イメージしやすいかもしれません。
福田:野球ですか。
下又
:野球は9人で行うスポーツ。ピッチャーが投げた球をバッターが打つ。打ったら1塁に向かって走る。ホームまで戻ってきたら1点入る。三振したらアウト、スリーアウトで攻守交替、9イニングまである…といった、基本のルールは知識としてインプットが必要です。それすらわからないと、さすがに何もできませんから。
これは、英語で言うところのごく基本的な文法理解や語彙力にあたります。
いかに英語が実技科目だとはいえ、“My name is XX. I’m from Japan.”といった程度の英文を理解できる英語力は必要です。
福田
:最低限、持っておかなければいけない英語力のレベルはあるということですね。
でも、日本人であれば、それこそ学校教育において一定のインプットはできているのではないかと。
下又:おっしゃる通りです。
福田:だから、あとは練習あるのみ。
下又
:もし、野球解説者になりたいのだとしたら、多くの試合や練習風景を見て、理論や選手の戦績や強みをインプットしていく必要があるでしょう。
でも、実は一度も自分で球を投げたことがない、バットを持ったこともない…としたらどうですか?
その人は、優れた野球解説者にはなれるかもしれませんが、野球が上手な人になる日が訪れることはありません。もし、野球がうまくなりたいなら、基本的なルールや動きを覚えたらすぐに、素振りをしたり球を投げたりする練習をすべきです。
福田
:つまり「英語力を磨いていけば、英会話力も上がっていく」という誤解は「たくさん野球の試合を観戦して理論や情報をインプットし続けていけば、野球が上手な人になれる」と思い込んでいるようなものなんですね。
下又:そういうことです。
「まずは英語の知識を身につけるのが先だ、語彙が多い方がうまく話せるはずだ…」と思いながら英会話の練習に踏み出せないでいるうちは、英語学習を繰り返しているだけ。
当然、英会話ができるようになるわけもなく、学習の手ごたえや成功体験を積むこともできないので、結果的に英語学習難民になってしまいます。
「日本人の英語学習者」と「外国人の日本語学習者」その決定的な違いとは?
福田
:こういう誤解をしているのって、日本人の英語学習者だけなんですか?
下又
:その傾向が強い、とは言えるでしょうね。シャイな国民性もあるでしょうし、失敗を恐れてなかなか踏み出せないといった一面も関係していると思います。
しかしながら、実践での失敗から得られる学びはたくさんありますし、それが上達の近道であるというのは、スポーツやビジネスの領域で言えばめずらしくもない話だと思いませんか?
なぜか、日本人は英語という分野において及び腰になってしまいがちです。
福田:逆に、日本語学習難民になってしまう外国人はあまりいない?
下又:でしょうね。
コロナ禍の以前、海外から多くの人たちが日本にやってきていた頃は、文法も単語もおぼつかないのに果敢に話しかけてくる外国人観光客などをよく見かけたと思います。
彼らは最初から日本語力よりも日本語会話力を上達させようとしているので、話せるようになるまでの期間も比較的短いと思いますよ。
福田
:学習書や日本語のコンテンツなどでインプットはしているにしても、まずは話してみるという意識が強いんでしょうね。
それも、日本語を話せるようになりたいという目的であれば、理にかなったやり方だと思います。
とにかく重要なのは「英語力」と「英会話力」は別物のスキルで、目的に合わせた学習をしなければ上達の道は拓けない…ということですね。
そして、英会話という実技をうまくなりたいなら、話す練習をするしかない、と。
下又
:その通りです。「わかる」と「できる」は同義ではありません。英語の勉強を行えば「英語がわかる」ようにはなりますが、必ずしも「英語が話せる」ようにはなりません。学習だけでなく練習・実践を行い、実際に使えるようにする部分にもっと力を入れていくことが必要です。
私自身がよく出会う例として、簡単なレッスン教材を見た方が、「こんな簡単な教材では力が付かないから、もう少し難しい教材で受講したい」と。でも、実際に簡単な教材でレッスンを受けていただくと、全然話せないことに初めて気付く…。
これも、「わかる」と「できる」に大きな差があることを実感するいい例かと思います。
ここまで読んだ方なら、冒頭の質問に答えられるのではないでしょうか?
つまり…
…だとしたら「英会話力」を高めるにはどうすべきなのか。
次回は「英会話力」について、もう一歩踏み込んで考えてみましょう。