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「新制作座」の“演劇の続け方”にたまげた①(中込執筆)

八王子・高尾の山奥(といってもぜんぜん過言ではない)に演劇王国がある。「新制作座」という劇団(NPO法人)の拠点として1963年に設立(劇団は1950年創立)。今は星槎国際高等学校の高尾キャンパスともなっている。

新制作座は、「泥かぶら」という演目を昭和27年から今でもずーーーーっと、色々な場所で上演している。ひとつの演目をひたすらに上演し続けて、それだけの収入で100人以上の劇団員が食べていけていた時代があった。す、すごすぎる…。30代の私はおろか、演劇ネットワークぱちぱちのユース世代には当然ながらまったく想像ができない演劇の形。

なぜ何十年も同じ演目を上演し続けることができるのか。演劇公演だけで食べていくとはどういうことなのか。同じ八王子の縁もあり、新制作座の“演劇の続け方”について、ワークショップ(というか交流の場)を開催していただくことになった。

第一回・2022年9月4日(日)の記録です。

「泥かぶら」ワークショップ
10時~14時30分@俳優の家&高尾ホール


前半はお話を伺い、後半は泥かぶらの台詞を拝聴しました。

参加者:
新制作座より:(17代目泥かぶら)小津和知穂さん・(代表)眞山蘭里さん・(ベテラン俳優)木村幸子さん
他、俳優の方2名と、ユース世代(ぱちぱちメンバー)の俳優2名と中込。

「泥かぶら」とはどんな演目なのか


「泥かぶら」の上演歴のお話


○文豪である眞山青果の娘である眞山美保氏作。(この、美保先生による劇団のマネージメント術がすごすぎるのです!!!)
○四半世紀受け継がれてきた作品。1万5000回上演してきたらしい(す、すごすぎる…)。年間200ステージやった時代がある(嘘でしょ…)ちゃんとした上演記録が残っていたらギネスブックもの!(そうだろうなあ!)
○その当時は「芝居のない世界に行きたい…」と感じていた。乗り打ち(劇場に入ったその日に上演すること)ばかりだったこともあり、寝るかお風呂かどっちか取らないといけない…という状況。
○同じ日に、別の場所(学校とか)を回ったこともあった!(業界用語で居どころ代わりっていうそうです。初めて聞いた)
○地方公演などで、見せる相手の都合に合わせて変えていく。ちゃんとした劇場がある時代ではない。体育館の卓球台(当時は今と形が違う)で舞台の張り出しを作ったり、受け入れ側と一緒に舞台を作るという「一体感」があった。
○仕込み時間を短縮するために、照明を吊った竹竿?を、みんなでわっせわっせと担いで、徒歩で次の上演会場に行ったこともある。

地方での演劇上演について


○「演劇の趣味はない」「高尚すぎる」「チケット代が高い」「テレビに出てる俳優がいない(有名じゃない)」これらの壁をどう突破するか。
○東京ほど演劇を見る機会がない。観方がわからない。学校公演で暗転すると大事件に感じられて悲鳴があがる。
○1幕を見た後休憩が入ると、2幕が楽しみになる。子どもたちが、騒いでいる他の子を制する場面が見受けられる。上演時間中に子どもたちが変化していく。
○東京生まれの劇団ではあるが、東京だけでは1万5000回も上演できなかった。
○地方に上演しにいかなければ、演劇をやる人が地方からは生まれない。

劇作家・演出家・俳優である眞山美保さんについて

http://www.shinseisakuza.com/about/mihomayama.html

○お父さんの眞山青果氏は歌舞伎も書いた大劇作家
○大変に美しい人!なので芸術だけじゃなく美保さん自身に惚れてしまう。女傑!
○抜けるような白い肌で、怒ると、白目に緑色の線が浮き上がった。
○戦後(美保さんは大学生)に、地方復興を考えて地方で上演することに。泥かぶらは、自分の青春に対する「復讐」。もう二度と自分のような戦争に巻き込まれた辛い青春をおくる人が出てこないように。
○戦後、どういう芝居をやるか?どんな作品を持っていっても、今の過酷な状況に合うものがない。「新劇」は特に。それに非常に悩んでできあがったのが「泥かぶら」
○もとからの作家ではなく作家になっていった。俳優から始まった。
○みんなのお母さん。劇団員に会うとまず「ごはんは食べたの?」と聞く。
○眞山青果とのエピソード。美保さん5歳頃の話。ある日、床の上の本をうっかり跨いでしまったそう。父・青果にえらく怒られて、「なぜ本を跨いだか」と詰め寄られた(問答開始。いつものことだったそうです)。美保さんは考えて、「本に対する畏敬の念がありませんでした」と答えた。それを聞いた父は「わかったな」と許したそうです。「うっかりしました」なんて答えたら許してもらえない!

新制作座について

○眞山美保さんと、夫であるところの俳優・槙村浩吉さんと、草村公宣さんで設立。
○地方公演で数カ月家を空けるので家賃がもったいない。だから、そのお金で家と劇場を建てることにした。劇団員100人以上の共同生活と稽古がスタート!
○その住居の中には、劇団員の親を引き取る棟もある(家族みんな面倒みるよってことか!)
○当時はコンビニもないから食堂を建てた。
○当初から月俸制にした。
○知穂さんは高校卒業してすぐに劇団に加入。蘭里さんは劇団で生まれた(美保さんのお孫さん)。完全に劇団での収入で生きているので、劇団しか知らない。アルバイトをしたこともない。オーディションも受けたことがない。(だから、新人発掘のオーディションのやり方がわからなくて苦労しているとのこと)
○稽古は徹夜でやるものというのが新制作座の常識。21時間目からが勝負!=無な状態になれるから。トランス状態を作る。表現者として美しくなる。(今の時代じゃパワハラになっちゃうよねえ~と仰ってました)

演劇で食べていくこと、劇団のチームマネジメント


○眞山美保さんは、演劇で食べていくことを目指した(実際にそうなった)。お父さんが作家で一家を養っていたから、見本があった。
○劇団は分かれていく。芸術の方面ではなく、経済や恋愛問題で離れていく。=それはしっかりとした考えがない証拠でもある。
○「どうせ演劇では食べていけないよね」の考え方をねじ伏せる。それには手立てが必要。
○食べていくことはできる。でも、大変なこと。極限状態まで追い込まれる。
○自分たちがやっていること(芸術)が「特別なこと」と思わない方がいい。演劇や音楽以外でも、結局、生きることは大変。どこで苦労するかという話。
○稽古は休むが外で働きその収入を劇団に入れることで劇団の役に立っている「売れている」人たちと、稽古を休まずに参加する「売れてない」人たちの間に軋轢が生じる。
○人の間で作品を作る、ということに無我夢中で進んでいく。=内輪だけの芝居にならないように
○稽古とは、演出と俳優が一緒に段取りを決めて、それができるようになってから、その先が大事。
○演じることで自分が気持ちよくなりたいのであればカラオケ大会と同じように、お客からお金をもらうのではなくて自分が出すべき。
○俳優は職人になる必要がある。好きなように家を建てて雨漏りしたら、売り物にならない。
○チケットを売りにいくときは、相手に礼を尽くすために、着物で伺うようにしていた。演劇というとズボンに穴があいて季節感のない格好をして…という印象を変える。
○知穂さんが、「チケット売れなかったらどうしよう…満席にならなかったら自分のせいだ」と不安を抱えていた時に、美保さんが「チケットを売るとう目的ではなく友を作りに行きなさい」と言った。
○芝居は、仲間とつるんでやるもの。そこにはお客さんも含まれている。出会いにいく。
○演劇創作は労働なのか、祭りなのか。雇われているという感覚ではなく、みんなで稼いだひとつのパンを分け合うという姿勢が、演劇創作の場を強くするのではないだろうか。

「泥かぶら」リーディング

後半は、劇場に移動して、新制作座のみなさんによる1幕のリーディングを拝聴しました。

凄かった。
完璧なるコントロール、一切の生理を廃した技術の塊。
よく、素人の指導者が「気持ちを込めて台詞を言って」なんて言うんですが、演技者の技術とは「人に伝える技術」です。気持ちを込めるだけで伝わるなら苦労はしない。
声だけでも、エネルギーがすさまじく、実際の舞台だとどうなっちゃうんだろうと思いました。

ここには、「人に届ける」というしっかりした思いと技術がある。

まとめ

演劇王国といえば、鈴木忠志さんの利賀村と比較してしまいます。鈴木忠志さんも、永遠の(?)稽古と共同生活、確固たる演技術を用いて作品を創り上げています。20代の時に私も何度も利賀村に行き、大いに影響を受けました。

私が感じたことを大ざっぱながらまとめると、忠志さんは、戦いとしての演劇。美保さんは、愛としての演劇である、と思いました。

演劇で食べていく、しかもチームで。それには、確固とした信念と、運と、集中力がないと難しいんだな、と感じました。

蘭里さんが「一番大事なのは集中力」「それを美保先生から教わった」と仰っていて、それが私の心に残ったことのひとつです。「24時間365日、稽古場や舞台にいない時でも役者でいなさい」と言われて育ったそうです。その集中力は、どんなことを達成するのにも必要な能力だと思います。

次回は10月に行われる予定です。第二回に続く!

(執筆:演劇ネットワークぱちぱちプロデューサー/演出家・中込遊里)

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