野球と桜と気候危機 鼓舞・狂宴と「平常運転」の狭間で

 先日、日本中がWBCの試合に沸いたり桜の開花に浮かれている時に、IPCCは気候変動に関する最新の報告書を公表し、改めて世界で早期に温室効果ガス排出大幅削減を求める会見をおこなった。国連事務総長が「気候時限爆弾」と呼ぶ程、事態は深刻化しているが、日本を含め、主要排出国の指導者らの反応は今も否定的で対策を急ぐ様子も見られず、「平常運転」で逃げ切ろうとしている。

 なぜなら「危機」とは裏腹に、例えば、ロシアはウクライナに対する戦争を止めず、米国はアラスカでの新規石油開発を承認し、アフリカのマラウイとモザンビークでは先月からサイクロンによる大規模な洪水で多くの死者が出ているように、化石燃料依存の世界経済がもたらした、気候や環境、社会や国家間の「不公正」は、顕著なまま。地域の分断や環境破壊を引き起こしているモザンビークのLNG開発には、日本の企業の参入や政府の期待もあって目が離せない。
 
 今も経済規模が第3位で温室効果ガス排出量が第5位の日本の世界的影響は、おそらく日本人自身が想像する以上に大きく、意味を持つ。IPCCの最新報告のタイミングに合わせて、NYCタイムズスクエアではCanonの温暖化懐疑論を批判する広告も掲げられていた。Canonのカメラやレンズは報道やスポーツの分野でも長年使われてきたのだから、メディア関係者らが沈黙し続けるのは、ありえない。

 WBCの中継や解説であれば、例えば、参加の選手の移動手段にプライベートジェットが適当だったのかどうか、日頃からSDGsキャンペーンをおこなっているTV局なら、番組の内容に挟むことくらいは出来たはず。同様に、季節外れの暖かさから異例の早さで開花した今年の桜も、その背景にある温暖化の影響を、気象予報士ら専門家がもっと前に出て伝えればいい。現在、経験している温暖化は人為的で、その主な原因は化石燃料の燃焼。因果関係は、はっきりしている。

 スポーツ観戦や花見など文化や趣を大事にするつもりなら、メディアも企業も政治家も優先順位を見直さなければならない。熱意が本物かどうかは、気候危機に関する報道やビジネスや政策の結果で「世界一」を争えば、はっきりするだろう。見え透いたナショナリズムや一過性の消費にすり替え、世間を扇動や撹乱しているうちに、すべて手遅れになる。


参考:

「人類のサバイバルガイド」 国連報告書、温暖化加速を警告 2023年3月21日
https://www.afpbb.com/articles/-/3456466

IPCC報告 “短期に気温上昇1.5度に到達 大幅な排出削減策を” 2023年3月21日
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230321/k10014014531000.html

U.N. Warns “Climate Time Bomb Is Ticking” as Cyclone Freddy Death Toll Tops 560 in Malawi & Mozambique March 21, 2023
https://www.democracynow.org/2023/3/21/climate_ipcc_report

Canon Called Out for Climate Denial on a Billboard in New York’s Times Square Mar 23, 2023
https://petapixel.com/2023/03/23/canon-called-out-for-climate-denial-on-a-billboard-in-new-yorks-times-square/

治安に懸念も洋上LNGプラント計画は順調、再エネにも関心集まる(モザンビーク) 2022年4月8日
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/741f356babcb6198.html


関連: