風力発電 「神話の里」でのコミュニケーション 続き

 島根の安来で計画中の風力発電事業では、「公開質問状」提出の地元の反対運動が事業者のJREから受けた回答を先月末にブログで公開。その回答を見ると、質問状にあった水源や不動産価格、防空レーダー、騒音など地元の「懸念」の他、他地域での「プロジェクト・ファイナンス」をめぐる苦情や誤解についても丁寧に説明が記されている。実際、住民監査請求にまで至った宮城の加美町では、今月2日に同事業者との契約で町に不利益が無いことを示す協定が結ばれた。住民らとのコミュニケーションの改善を図る上で有効な手立てであり、目に見えるかたちの「風評」対策。

 NHKの記事には「協定書では、自然災害や事故で風車が壊れた際などは、原因究明と再発防止策を行い、風車の解体や撤去に必要な費用の積立状況を町に報告するなど、事業者が責任ある対応を行うことを定めているほか、自然環境の保全や農林業の振興など、地域貢献として毎年1千万円を町に寄付するなどとしています」とあるが、町有地の賃料や固定資産税など実質的な利益や便益の見通しが大前提。それに付随する「地域貢献」が、町長自身は既存の風力発電施設の視察報告で他の事業者とはいえ、青森のつがる市の「農山漁村活性化事業基金」の成果を挙げているので、同様のヴィジョンになるのだろう。一連の経緯や詳細は同町の議会の議事録で確認出来る。

 ただ、反対運動の側がそれに納得するはずもなく、先のブログでは「東京からやってきた得体のしれない企業が、自主的な環境調査をやって安心させますと言われても、それは無理ってもの」「せめて、地域の人、もしくは地域の人が選んだ第三者の調査機関と共に一緒に調査させていただき納得の行くまで計画はすすめない、くらい言ってほしいもの」とか「内容的には、説明会での回答のように今後の調査や検討といった内容が多く具体的な補償事例や数字が示されたわけではありません」「あらたな質問が増え、説明会でも納得のいかない、不安を扶植できるような回答を得られなかったことから、あらためて公開質問状を作成して届けようと思います」などと、どの記事でも一歩も引かない姿勢。

 「地域の人が選んだ第三者の調査機関と共に一緒に調査」の意味は、文脈からすると反科学やNIMBY、憎悪の容認を迫ることになる。仮に認めれば、再エネとの「共生」の否定に繋がり、いずれは自治が失われて地域は孤立する。今回の質問状と回答を第三者の立場で読み比べて言えるのは、まだ計画段階なので「具体的な補償事例や数字」の提示には限度があることくらい誰でも分かるはずなのに、反対運動の側は事業者に一方的に非や落ち度があるかのような印象操作をブログやSNSを通じておこなっているだけで、そもそも両者は同じ土俵にすら立っていないということ。

 反対運動の側の根拠は、このあいだの「勉強会」録画のYouTube配信も含めて偽情報や誤情報ばかり。サイトの「参考情報」で唯一まともなのは「環境省(風力発電施設から発生する騒音等の評価手法に関する検討会)」だが、それもわざわざ「座長は理工学部教授であり、委員は工学部、社会学部、法学部などの関係者がほとんどのため、結論としては風車と低周波の健康被害については認められないとほぼ結論付けています」などと曲解。「風車と低周波の健康被害については認められない」のは2017年当時の国内外の最新の科学的知見をまとめた結果であり、その後に発表されたものと見比べてもさほど変わりはなく、その事実が根本から覆ることはまず無い。

 それを世間が多少なりとも理解出来れば、噂やデマ、作り話に安易に振り回されることもなくなるだろうが、環境アセスの性質上、事業者や行政は住民らのどのような意見に対しても、そこまで強くは言えない。力の不均等もあるし、言ってしまうと議論そのものが完全に決裂してしまう。それは過去の教訓でもある。だからこそ、その解決には独立性のあるメディアが率先的に取材して、科学的知見や歴史的背景など事実関係を正確に伝え、住民のあいだで広がる噂やデマ、作り話の「感染」予防や「免疫」獲得にも寄与しなければならない。日本社会が不健全なのは、まずをもって報道の「不自由」にある。

 簡単に言えば、過去3年程の新型コロナに関する報道で出来たファクトチェックを「成功体験」とし、これからは風力など再エネの分野にも広げて日々発信すること。パンデミックも気候や生態系の危機も同根なのだから、今更、難しい話など無く、あとはやるかやらないかだけだが、やらない選択肢は残されていない。いろんな意味で「生き残り」を賭けた闘いだと、国内メディアすべて自覚すべき。


参考:

本日をもって事業者による方法書説明会の全日程が終了しました。 4月 29, 2023
https://windyasugi.blogspot.com/2023/04/blog-post_29.html

JREさんから公開質問状に対するお返事が届きました  4月 24, 2023
https://windyasugi.blogspot.com/2023/04/jre.html

建設中の風力発電施設 加美町が事業者と協定 05月02日
https://www3.nhk.or.jp/tohoku-news/20230502/6000023317.html

つがる市 農山漁村活性化事業基金の使途について
https://www.city.tsugaru.aomori.jp/soshiki/keizai/nourin/5641.html

神話の里と豊かな自然を守る会 参考情報
https://www.windofyasugi.com/%E5%8F%82%E8%80%83%E6%83%85%E5%A0%B1


関連: