風力など再エネの理解を得る難しさ 続き

 風力など再エネ事業では、計画の土地を所有する住民には利用料などが支払われても他の住民には支払われないと、意図せずとも不平等が発生して、それが住民同士の対立や地域の紛争の引き金になることがある。

 かつて豪の風力発電所でコミュニケーションやデータ分析を担っていた専門家のケタン・ジョシによれば、市民運営型で知られるデンマークやドイツでは対象地域の住民に一律支払いをおこなうなどして、摩擦を解消してきた経緯があり、2000年代初期は、それでうまくいっていたし、「風車病」など微塵もなかった。しかし、以降は市民にお金が流れる仕組みから大企業に優位な競争入札へと制度が変わり、その反動で風車による健康被害の不安が現れ、近年は風車建設が停滞したり、ドイツでは新たな再エネ事業計画統合のための大規模な送電線の開発が激しい反対運動を引き起こした。

 事業者の側が住民感情に鈍感だと、この事態を利用して歯止めをかける側もいるだろうという考察は、概ね日本にも当てはまる。日本では、そもそも計画の是非をめぐって事業者と協議する、報道などで知りうる主な利害関係者が、議会や環境影響評価委員会を除けば、地権者や森林組合、あとは野鳥観察や山岳の愛好を含む自然保護団体くらいで、明らかに偏っている印象を受ける。そこに「風車病」をはじめとする反科学やNIMBYismが早期に持ち込まれ、住民の囲い込みで事業者と対立させる構図がある。「風車病」が住民の不満や不安の兆候とも言えるが、それ以前の課題が依然として大きいように思う。

 見直すべきは負担と利益の不公正だが、何よりもまずは住民の主体的参加を可能にして、あらゆる意見や意向を事業に反映させていくことが重要で、まさに地域の力(community power)の真価が問われている。

 ちなみに、三重の津と松阪の山間部での事業計画では、どれも良好な「風況」以外に既存の送電設備が使える。つまり、新たに工事をしなくて済む分、建設費用や環境負荷を抑えることが出来る。そのメリットを事業者だけのものと考えるのか、それとも地域全体のものと考えるのかで、見方は変わるはず。また、その伝え方も考えていけばいい。

10/26/2022 加筆修正済

参考:

Renewables are cheap and effective. Now, let’s make them just and humane too
https://thecorrespondent.com/561/renewables-are-cheap-and-effective-now-lets-make-them-just-and-humane-too

Ketan Joshi Fossil free futures
https://100climateconversations.com/ketan-joshi/

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