ツールキットの補遺 2

予言の自己成就(自己実現)

在日朝鮮人である社会学者、姜尚中は、みずからの就職進路を考えていたとき、選択肢はパチンコ屋か街宣車しかなかった、と述懐しています。相当なプレッシャーがあったと思われますが、さいわい彼は学術の道を続けることができました。しかし、これは例外的です。「日本人」社会の偏見や差別、たとえば「在日朝鮮人や特定部落出身者は粗暴ですぐ犯罪を起こす」といった思考が蔓延して当事者がまともな職につけなかったとき、生活に窮して盗みなどの犯罪に手を染めることがあり得ます。

このように、事前の予想(予言)が、その予言を真に受けた人々によって現実のものになるとき、その現象を「予言の自己成就」と呼びます。この状況では公権力が介入して「予言」の輪を断ち切ることが選択肢になりますが、なかなか困難な道だという人もいます。ここで念頭に置かれているのは、たとえば「貧困の文化」といったものです。この文化の中で暮らした子どもたちは、「普通」に触れる機会が少なくなって貧困や怠惰が再生産される、という懸念を口にする人がいます。とはいえ、こういった言説自体が、予言の自己成就に繋がる危険も考慮しなければなりません。行政による調査では、事態は段々と改善されています。