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内視鏡専門医試験過去問ノート⑨2023年7月の過去問考察(下部+胆膵)

2023年7月の消化器内視鏡専門医試験過去問で問われた内容から、内視鏡専門医に必要な知識につき文献を交えて考察します。
2023年7月の出題数は
 ・総論:18問
 ・上部(食道、胃、十二指腸、小腸):36問
 ・下部:28問
 ・胆膵:18問
計100問でした。
近年の出題比率は概ね
 総論2 食道+胃3 十二指腸+小腸1 大腸3 胆膵2
の比率となっているようです。前回に引き続きCBT方式の試験で、出題内容・出題順・選択肢は全受験者同じだったようです。

・本記事では下部28/28問、胆膵17/18問について試験に備えるべき内容を考察しています。

・書籍の関連ページは下記のように省略して表記します。
 例1:5-155=「解答と解説 第5版」p155
 例2:ハ2-104=「消化器内視鏡ンドブック第2版」p104
 例3:巻末292-1=消化器内視鏡学会誌巻末「専門医学術試験問題とその解説」第292回問題1

★本記事に掲載されている内容を全て印刷可能なPDFを本文末尾に掲載しています(パスワード設定あり)。ぜひご利用ください。(2024/7/13更新)

・いただいている情報量が例年胆膵については比較的少なく、胆膵分野の内容は薄くなっております。何卒ご了承ください。

※問題番号は仮のもので設問順序は実際と異なります。ただし実際の試験でも総論→上部→下部→胆膵と順序よく出題されました。
※CBT 試験のため実際の試験では各選択肢に abcde という表記がなくチェックボックスをクリックしながら進む形式でしたが、本ページでは解説記載の便宜上 abcde と表記しています。


<<<以下本文サンプル>>>

1: 40代女性。全消化管に図のような病変を認めた。この疾患について正しいものを2つ選べ。


食道
上行結腸~横行結腸

a: 性差がある
b: 高齢になると改善する
c: 皮膚病変がある
d: 出血する症例は稀である
e: 出血病変があった場合は全ての病変を切除する


【解説】
今回初出題の青色ゴムまり様母斑症候群(Blue rubber bleb nervus syndrome: BRBNS)に関する設問です。いくつか画像と症例をみておくと非常に印象に残る疾患です。

画像をみる前にまず疾患の全体像として
日本消化器内視鏡学会雑誌 53巻2号(2011)
「Blue rubber bleb nevus syndromeの小腸血管腫に対しクリッピングが有効であった1例」
から一部引用します。症状や臨床経過含めざっくり雰囲気を把握しましょう。

【要旨】
症例は45歳女性.主訴は易疲労感,動悸,頭痛.平成20年11月頃より上記症状に加え黒色便を認めたため近医受診し著明な貧血を認めたため当院へ紹介となる.カプセル内視鏡,小腸内視鏡で小腸・大腸に多発する血管腫を認めたためBRBNSと診断した.それら病変に対してクリッピングで治療した.治療後の内視鏡検査では病変は消失,もしくは縮小していた.

【緒言】
Blue rubber bleb nevus syndrome(BRBNS)は海綿状血管腫や毛細血管性血管腫が皮膚,消化管を中心とし,全身に見られる稀な疾患である.消化管病変からの出血が予後を左右する因子とされており,胃や大腸病変からの出血に対しては近年内視鏡治療の報告が多く見られる.
(中略)
本邦では1967年に斉藤らによる皮膚病変の報告が最初で,BRBNSを青色ゴムまり様母斑症候群と訳して報告し現在の呼称が通例となった.今回われわれが検索したところ,1967年の斉藤らの報告以来,自験例までに合計90例(論文報告のみ)の報告があった.
本症の男女比は1:2で女性に多かった
消化管血管腫はそのうちの80例に確認され,消化管では大腸,胃,小腸,口腔内,食道の順に報告例が多かった.本症の病態については,海綿状または毛細血管性血管腫が全身に存在する血管腫症であるが,特に皮膚および消化管によく見られる.
胎生期の分化発生過程における構造的欠陥ないし,形成不全が原因ではないかと考えられている.9番染色体短腕の異常が指摘された常染色体優性遺伝の報告もあるが多くは散発性である.筆者らが集計した結果では,本邦でも家族歴がある患者は6例(1.5%)に認められたのみであった.

皮膚に青色調でゴム乳首様の感触を有する多数の血管腫や,加齢と共に増大する単発性の巨大な血管腫またはリンパ管腫を有する場合は消化管を含めた全身精査を行い,消化管を含めた他臓器における血管腫の合併を確認できれば本症候群と診断できるが,皮膚所見だけでは多発性グロムス腫瘍,遺伝性出血性毛細血管拡張症(Osler病),Maffucci症候群,Fabry病などとの鑑別が必要である.

日本消化器内視鏡学会雑誌 53巻2号(2011)
「Blue rubber bleb nevus syndromeの小腸血管腫に対しクリッピングが有効であった1例」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/53/2/53_2_275/_pdf/-char/ja

口腔外科学会雑誌でも2020年の報告がありました。画像含めかいつまんで引用します。

発生頻度は14,000人に1人とまれな疾患である.
発症年齢は,大半が幼少時期より発症し,加齢と共に血管腫数および大きさが増大する.しかし血管腫の悪性化の報告は認めない
男女比は1:2と女性に多い
皮膚および消化管に多発した静脈性血管奇形を認めることで確定診断される.BRBNSは静脈奇形の一亜型であり,多くは散発例ながら,家族内発生例も報告されている.

日本口腔外科学会雑誌 Vol. 66 No. 10
再発性口腔内血管腫を契機に診断に至った青色ゴムまり様母斑症候群の1例
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjoms/66/10/66_506/_pdf

症状や治療については以下「小児慢性特定疾病情報センター」の解説が一番わかりやすいです。

【概念・定義】
Bean症候群とも呼ばれ、全身の皮膚および消化管を中心とした内臓に生じる静脈奇形を特徴とする。皮膚病変がゴム乳首に似ており、青色がかっているため、1958年にWilliam Beanによりblue rubber bleb nevus syndrome (青色ゴムまり様母斑症候群)と命名された。全身の皮膚以外に、消化管をはじめとする多臓器に病変が認められ、ときに重篤な出血性合併症を起こす。また、奇形血管内において局所的な凝固因子消費が生じ、全身性血液凝固異常を合併することがある。多くは散発例だが遺伝性の場合には常染色体優性遺伝を示す。
病因】
血管奇形のうち低流速である静脈奇形に分類される。血管新生に関わるTIE2遺伝子の関与を示唆する報告もあるが、多数例においての確認は行われておらず、原因遺伝子として確定していない。今後の病因の解明が待たれる。
臨床症状】
0.1~5cm 程度の青色~黒色のゴム乳首様と例えられるような皮膚の静脈奇形が多発してみられることが特徴的であるが、小児期には皮膚病変が顕著でなく、成長とともに病変が目立つようになることが多い。静脈奇形内に静脈石を形成したり血栓性静脈炎を併発したりすると疼痛が出現する。 また皮膚のみでなく中枢神経、肝臓、脾臓、腎臓、肺、心臓、甲状腺、筋肉などにも病変を伴う。臨床的に最も重要なのは、消化管に多発する静脈奇形により様々な程度の消化管出血と鉄欠乏性貧血を生じることである。消化管病変が先行し、原因不明の消化管出血とされる症例もある。
検査所見】
消化管病変の検索には内視鏡、とくにカプセル内視鏡が有用である。他の臓器の検査にあたってはCTやMRIなどの画像検査が用いられる。 血液検査では慢性的消化管出血に起因する鉄欠乏を伴う小球性貧血を認めることが多い。また慢性的な血液貯留によって静脈奇形内での凝固因子の消費が生じ、D-Dimerの上昇、フィブリノーゲンや血小板数の低下、FDPの上昇などを示すことがあり、localized intravascular coagulopathy (LIC)と呼ばれ、カサバッハ・メリット現象とは区別される。 病変部位の病理学的所見は結合組織中に拡張した血管を認め、血管壁は薄く内腔は不規則で、平滑筋細胞を欠損していることも多い。
診断の際の留意点】
臨床診断が中心であるが、とくに小児期では皮膚病変が乏しく、消化管病変による消化管出血と鉄欠乏性貧血が先行する例があり注意を要する。
治療】
 消化管粘膜の多発性静脈奇形からの慢性出血により鉄欠乏性貧血を生じ、大量出血時は輸血を要する。消化管病変に対しては内視鏡的硬化術やレーザー凝固術、外科切除などが試みられる。血栓や静脈石による疼痛に対しては弾性ストッキングなどを用いた圧迫療法が行われる。 内科的治療としてステロイド、インターフェロン、プロプラノロールが用いられているが、その効果は限定的である。保険適応外であるがmTOR阻害剤(シロリムス、エベロリムス)などが試みられ有効性が報告されており、今後の臨床データの集積が待たれる。
【合併症】
大量消化管出血や腸重積症などの合併症が報告されている。中枢神経病変により痙攣や麻痺などが生じることもある。
【予後】
全身の多臓器におよぶ静脈奇形は完治することなく、生涯にわたり出血や消費性凝固障害、疼痛などの原因となる。
成人期以降の注意点】
多発性の消化管内静脈奇形を合併するため、しばしば慢性の鉄欠乏性貧血を生じる。また全身の皮膚にも自然消退することのない静脈奇形が多発するため、整容的な問題を残しうる。

https://www.shouman.jp/disease/details/16_01_001/
「青色ゴムまり様母斑症候群」

ここまでで試験に関連しそうな部分をまとめ、
 ・幼少期より発症(ただし最初は皮膚病変が地味な場合あり)
 ・徐々に増加、増大
自然消退はない
 ・女性に多い
 ・散発例>遺伝例
 ・消化管出血と貧血
が重要な臨床症状
あたりをおさえておきましょう。

選択肢にもどると
 a: 性差がある →〇
 b: 高齢になると改善する →×
 c: 皮膚病変がある →〇
 d: 出血する症例は稀である →×
 e: 出血病変があった場合は全ての病変を切除する →×
dとeに関しては文章のニュアンスが実際の出題と異なった可能性がありますが、明らかに正解と思われる選択肢はa cとなります。
【解答】a c

ここからはBRBNSが印象に残るための画像集です。
喉頭や気管の病変に関する症例もありました。舌の血管腫画像が印象的なので文章も一部ご紹介します。病変が徐々に増大するためか、治療を要した症例として報告されているものは意外と40代や60代であることも確認しておきましょう。

青色ゴムまり様母斑症候群(BRBNS)の静脈奇形からの出血に対する治療法として消化管の外科的切除が選択された場合、全身麻酔が必要となる。一般にBRBNS患者の麻酔管理は気道や脊柱管の血管奇形のために困難である。
BRBNSの60歳女性が回腸の出血性血管腫のために開腹腸管切除術を受ける予定であった。気道は光ファイバー気管支鏡を使用して評価され、喉頭と気管に複数の血管腫が明らかになった。気管狭窄や出血は認められなかった。 (中略) 挿管時に光ファイバー気管支鏡を使用して気管チューブが気管の血管病変に接触していないこと、出血がないことを確認した。手術終了後、上気道病変を破壊せずに抜管され術後経過は順調であった。

Anesthetic considerations for blue rubber bleb nevus syndrome 2019年12月
Anesthetic considerations for blue rubber bleb nevus syndrome 2019年12月

他にも英語で画像検索すると多彩な画像がでてきます。皮膚病変も消化管病変も色調や形態にバリエーションがあるようです。ここからは画像だけさらっと見ておいてください。

空腸病変


<<<以上 本文サンプル>>>

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