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内視鏡専門医試験過去問ノート⑦2022年7月の過去問考察(下部+胆膵)

【2023/07/14 訂正】
・問題番号69の潰瘍性大腸炎患者のhigh grade dysplasiaに関して重要な訂正を追記しました。
直前の訂正となり大変申し訳ありません。ぜひ内容をご確認ください。

【2023/7/20 改訂】
・問題番号68について7/20に学会HPで公開された情報をもとに改訂しました。

こちらも直前となりましたが、ぜひ内容をご確認ください。

2022年7月の消化器内視鏡専門医試験過去問についての考察の続編、下部+胆膵領域に関する考察です。

総論+上部の冒頭部分繰り返しになりますが、2022年7月の出題数は
 ・総論:18問
 ・上部・小腸:35問
 ・下部:29問
 ・胆膵:18問
計100問でした。本記事では上記のうち下部、胆膵に相当する範囲について考察しています。

47問中45問分相当を掲載していますが、実際の出題内容を類推する内容が含まれており、全ての設問について詳細な選択肢再現や解説・考察ができているわけではありません。予めご了承ください。

・冒頭に本文サンプルとして、一部胆膵領域の内容を転記します。

・書籍の関連ページは下記のように省略して表記します。
 例:5-155=「解答と解説 第5版」p155
 例:ハ-104=「消化器内視鏡ハンドブック」p104

★本記事に掲載されている内容を全て印刷可能なPDFを本文末尾に掲載しています(パスワードあり)。ぜひ印刷してご利用ください。


<<<以下本文サンプル>>>
85:
WONに対するlumen apposing metal stent(LAMS)について正しいものを選べ。

a:step up法ではまず手術を検討する
b:一期的ネクロゼクトミーを行う
c:無症候性のWONに対してまずLAMSを使用する
d:径3cmの膵仮性嚢胞はLAMSの良い適応である
e:プラスチックステントや金属ステントよりも高いドレナージ効果を得ることができる


【解説】LAMSに関する設問です。c-eの選択肢は正確に再現できる情報がなく、LAMSに関する一般的知識から予想問題として選択肢を作りましたので設問の難易度は実際と異なる可能性があります。
WON治療に携わったことのある方で、超音波内視鏡ガイド下経消化管的ドレナージ(EUS guided transmural drainage: EUS-TD)やEUS-TD に引き続き内視鏡直視下に壊死物質を取り除く内視鏡的ネクロセクトミー(endoscopic necrosectomy: EN)は見たことがあってもLumen Apposing Metal Stent: LAMSについてはあまり認知していなかった方もいるのではと思います。
LAMSはlumen(=内腔、管腔) apposing(=並置、接合、接着)という名の通り、離れた2つの管腔を2つの大きな張り出し(flange)でしっかりと把持し引き寄せ瘻孔を形成するための金属ステントです。LAMSに対応した日本語はまだ無いようですが、強いて直訳すれば「内腔接合金属ステント」といったところでしょうか。添付文書の名称としては「膵臓用 瘻孔形成 補綴(ほてつ)材」と記載されているようです。
2017年からEUS-TDやENをより簡便で安全に、内視鏡医が安心して施行できるlumen apposing metal stent(LAMS)であるHot AXIOS(Boston Scientific 社)が使用可能となり、日本でも今後さらに普及していく可能性が高いです。下図のようなステントです。

lumen apposing metal stent(LAMS)のひとつ、Hot AXIOS(Boston Scientific 社)

高次医療機関でかつ胆膵斑などに所属している方でなければLAMSに関する一般的知識を得にくいと思いますが、こういった新しいデバイス等に関する設問は2023年以降に再度出題される可能性が高いのでしっかり確認しておきましょう。

以下、文献より引用します。
「WONに対するステントの選択および留置のコツ」日本消化器内視鏡学会雑誌Vol. 61(10), Oct. 2019

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/61/10/61_2388/_pdf/-char/ja

(略語確認)
・超音波内視鏡ガイド下経消化管的ドレナージ=EUS guided transmural drainage: EUS-TD
・内視鏡的ネクロセクトミー=endoscopic necrosectomy: EN

【WON に対する内視鏡的アプローチ】
感染兆候を呈するWONと,WONに伴う腹痛や消化管圧排に伴う通過障害、嘔気・嘔吐などの臨床症状を有するものが治療適応となる。たとえWONであったとしても小さなものや液体貯留が大半を占めるものなどは、自然に吸収されドレナージも必要ないことを経験するため、無症候性のWONはまず経過観察すべきである。注意点として、無症候性であっても経過観察で消退せずむしろ増大傾向であるWONは、その後に感染や出血をきたす可能性が高い。よって重篤な合併症を併発する前に治療導入を検討する。

壊死組織を多く含むWONはENの良い適応と考えるが、ドレナージのみで良好な経過が得られる症例もあり、特に大口径のLAMSを留置可能となってからは、これまでのプラスチックステント留置時よりもENの必要ない症例を多く経験するようになった。一期的にドレナージとENを行う施設もあるが、先述の通りENの必要ない症例もあるため、ENの侵襲度や偶発症のリスクを考慮すると、まずはドレナージのみを行い、その後の臨床経過から慎重にENの適応を判断するstep-up approachが良いと考える。
さらに、重要事項として、膵粘液性嚢胞腫瘍などの嚢胞性腫瘍をしっかりと除外しなくてはならない。そしてEUS-TDやENを行う際には、出血や穿孔など致死的な偶発症も起こり得るため、放射線科医や外科医のバックアップ体制を十分整えるべきである。


【ステントの選択】
2018年より本邦でもlumenapposingmetalstent(LAMS)であるHotAXIOSTM(BostonScientific社)がWONや膵仮性嚢胞に対してEUS-TDを行う際に使用可能となり治療戦略が大きく変化した。
これまで使用してきた経鼻ドレナージチューブを含むプラスチックステントや金属ステントよりも大口径であるため、より高いドレナージ効果を得ることができると同時に、プラスチックステントや金属ステントはあくまでも胆管ドレナージ用であるため、WONへの適応を取得したデバイスが登場したことは、われわれ内視鏡医が安心して治療が行えるという意味合いも含んでいる。
具体的には、CTなどの画像所見からWONがそれほど大きくなく、ほとんどを液体成分が占め、ENの必要がないと予想される時は、外瘻である5-7Frの経鼻ドレナージチューブか内瘻である7Frの両端ピッグテイル型のプラスチックステント、または内外瘻同時に2本を留置している。
WONが広範に及ぶ場合やENの施行が予想される場合にはLAMSを留置する。これまで金属胆管ステントが用いられることもあったが、WONが縮小してきた際にWON内腔の壁に金属ステント端が接触し出血した症例も経験しており、適応を有したより大口径でステント長の短いLAMSを使用する方が安全だと考える。ただし使用経験はいまだ十分でないため慎重に行う必要がある。

Hot AXIOSの使用において添付文書に、「胃壁または腸壁に密着している、症候性膵仮性嚢胞または70%以上の液体成分を認める症候性被包化壊死に対し、経胃または経十二指腸的な内視鏡治療に使用される。」と記載があるため、これを遵守し、さらに「径6cm未満の嚢胞への留置は使用経験がなく、安全性が確立されていない。」とあるため、このデバイスが普及し安全性が確立するまでは6cm以上の径を有するWONに対し使用すべきである。


【選択肢解説】
a:step up法ではまず手術を検討する→×
step up法は「まずはドレナージのみを行い、その後の臨床経過から慎重にENの適応を判断する」step-up approachのことなので、最初に侵襲の大きい手術を選択することではありません。

b:一期的ネクロゼクトミーを行う→×?
確実な文献を提示できず申し訳ないのですが、持続洗浄等で効果不十分であればネクロセクトミーを実施すると思われます。下記参考にしてください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/62/4/62_497/_pdf/-char/ja

c:無症候性のWONに対してまずLAMSを使用する→×
小さなものや液体貯留が大半を占めるWONは自然に吸収されドレナージも必要ない場合があるため、無症候性のWONはまず経過観察すべきとされています。

d:径3cmの膵仮性嚢胞はLAMSの良い適応である→×
基本的には6cm以上の径を有するWONに対し適応があります。

e:プラスチックステントや金属ステントよりも高いドレナージ効果を得ることができる→〇

以上より、正解:e となります。


<<<以上本文サンプルです>>>


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