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12-(4) おとうさん加わる!

マリ子の頼みなら、おとうさんはすぐに聞き入れてくれるのだ。

庭では、竹次さんに代わってマリ子のおとうさんが、早くも手返しに加わっていた。きねでついているのは、正太の2番目のお兄さんだった。

「先生はやっぱりうめえもんじゃ」

竹次さんがしきりに頭をふっている。そのそばに正太の親父さんが近寄っていき、何か小声で言った。

するとたちまち竹次さんが態度を変えて、親父さんとの言い合いが始まった。かまどの前に座っている、マリ子の耳に、きれぎれにその声が聞こえてくる。

「言うたろうが・・つらも見とうねぇ・・」

「・・正月ぐれぇ、気持ちよう入れてやって・・先生もついてくれるし、ひとうすぐれぇ、目ぇつぶってやってくれんか」

と、親父さんは、岡田のおっちゃんのもちつきの口添えをしているらしい。マリ子は耳をそばだてた。竹次さんはごね続けたが、親父さんはしんぼう強く動かずに、立ちはだかっていた。

「野原へ行って、頼めとは言えんじゃろが」
と、親父さんはまた言った。

野原というのは、しげるの家だ。岡田のおっちゃんの娘、つまりしげるの おかあさんが嫁入った大きな農家で、西浦の東のはずれにあった。

「・・身から出たさびじゃねぇか・・」

まだ竹次さんは言いつのっていたが、だんだん口数がへっていた。

どうやら押しきられて、竹次さんは自分のもちつきが終れば、すぐに引き 上げることにしたようだ。それほどまでに、岡田のおっちゃんをきらうのは、マリ子の知らない何かの事情があるのだろうか。大人の気持ちはさっぱりわからないや。

マリ子は正太を見上げた。竹次さんに知られずにすむのか、どう思うか正太に聞こうとしたら、親父さんがのしのしとこちらへやってきた。そして、 竹次さんに聞こえないくらいの声でこう言った。

「マリちゃん、すまんが岡田へ行って、さっきの米をもろうてきてくれん
か。つけることになったけん」

こういう時、マリ子はとりつくろえない。

「もう、岡田のおっちゃんの米は、台所へ運んどるが・・」

正太がマリ子の手をぐいと引いたが、もう遅かった。親父さんがふしぎそうな顔になった。それを見ると、マリ子はますます話さずにはいられなかった。竹次さんに聞かれないよう小声で言った。

「竹次さんにはぜったいないしょじゃけど、おっちゃんのは、うちのと  いっしょにつくことにして、うちのバケツのとこに置いてあるんじゃ」

そう言うと、親父さんはやっとわかったらしく、頭をのけぞらして笑った。

「マリちゃんの方が、頭ええわ。その手があったか」
「これ、言い出したんは正太さんじゃが・・」

声立てて笑っている親父さんには、マリ子のつぶやきは聞こえなかった  らしい。

「岡田のおっちゃんは家にいてもろうて、うちのおとうさんがつくことにしてるん。竹次さんには、何も話さんといて」

岡田のおっちゃんは、竹次さんにまた何か言われるのがいやなのだ、とまではマリ子には言えなかった。

「ややこしいもんじゃ。子どもにまで気を遣わせてしもうたのう。近所じゃもん、正月を迎えるぐれえ、気持ちようやりてぇんじゃが・・」

親父さんは頭をふりながら、竹次さんのところへ戻って行った。

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