1章-(6) 首輪とタオル
「おーい、コロスケー、おやつだよー」
土管の外へ大きく叫んでみたけど、コロスケは戻って来ない。
「先に食べちゃう?」
良ちゃんは言うと、ぼくの返事も待たないで、自分の分をとって、パクパク食べ始めた。ぼくも食べることにした。
「このあと、どうする?」
良ちゃんがもぐもぐ口を動かしながら聞いた。
「聞きこみにきまってるよ」とぼく。
「それもさ、あの掲示板より、ずっと遠い方から聞いてった方がいいな」と、これもぼく。
だけど、コロスケのことが気になってきた。
「おーい、コロスケ、サンドイッチだぞー。なくなっちゃうぞー」
もう一度大声で言ってみたけど、コロスケは戻ってこない。どこ行っちゃったんだろ。
たんてい団には、犬がいなくっちゃ。犬は鼻がきくんだから、あの行方不明の犬たちの何かの品物のにおいをかがせたら、それをたどって行って、探してくれるよ、きっと。ぼくはそのことに気がついて、あっと思った。これだよ! ワクワクしてきた。最後のパンのひと口を口に押しこんで、良ちゃんに言った。
「さっき電話番号を書いたろ。あのうちへ電話して、タロウとアズキの何かにおいのする物を、借りることにしようよ。それをコロスケにかがせて、追いかければ、聞きこみするより早いよ、きっと」
これはぜったい名案だ!仁志おじさんみたいだぞ。ぼくのワクワクが高まった。良ちゃんは感心しきったような目で、ぼくを見た、うんうんうなずきながら。
良ちゃんがケイタイで写した写真をのぞき込んで、電話番号を見ようと した。
「電話はぼくがかけるね。ぼくに良ちゃんのケイタイを貸してくれる?」 と、ぼく。 「いいよ、あっ君がかけた方がいいや」
良ちゃんは、ほっとしたみたいに言った。
ぼくはアズキの飼い主の松村さんに電話をかけて、古い首輪を借りることになった。家は第2公園のすぐぞばの、黄色いかべの家だから、目立ちます、だって。
タロウの方は、タロウによく使っているタオルを貸してくれるって。こちらの家は。河原の土手道の近くにある、屋根もかべも黒い小川さんちだった。 ぼくは小川さんに、すぐにこう言った。
「今からおじゃまします。ぼくら、河原にいるから、おうちに近いんです」
「ありがとうね。あなたのコロスケくんが、見つけてくれたら、嬉しいわ」
と、小川のおばさんがそう言ってくれた。
それにしても、かんじんのコロスケがいないじゃないか。
「オーイ、コロスケー、コロスケー」
何度呼んでも、駆けもどってくる足音はしなかった。
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