5章-(6) 謎が解けた!
心残りがひとつあったのは、私が一番知りたかった、あのナイメーヘンや アムステルダムの道沿いに高々と伸びていた並木の、その木の名前が結局 わからなかったことだった。
アンナは「リンデンバウム(菩提樹)」だと教えてくれたが、他の人たちに訊いてもわからないままだった。
帰宅して、リンデンバウムについて調べてみたが、夏の花で、淡黄色の小花を集散状につける、と書いてあり、花の写真も載っていたが、私が見たの とはぜんぜん違っている気がして、信じられなかった。それに、6月の初めに、たくさん空中を降るように舞い落ち、路辺に散り落ちて積もっていたし、白い花のイメージが強かったので、夏の花と言えるのか、とそれも怪しく思った。
そこで、東京にあるオランダ観光局や大使館にまで、電話して問い合わせてみた。が、職員達は祖国を離れて長いせいなのか、どちらも、わからない、という返事だった。そこで諦めてもよさそうなものなのに、我ながら徹底してるよ、とやってしまった後で、自分に呆れたのだが、その時は思いつくと即、行動に移して、ナイメーヘン市役所にファックスで、質問を実行したのだ。
すると嬉しいことに返事がすぐに届いた。それは the lime tree = セイヨウ ボダイジュというものだと教えてくれた。やっと胸のつかえが取れた気が した。つまりアンナの言った通り、菩提樹の仲間の、セイヨウボダイジュ、シナノキだったのだ。古い英語で linden と言い〈ライムの木の〉という意味。北半球の温帯産のシナノキ科シナノキ属の落葉樹の総称。葉はハート型で、かぐわしい小さな黄色の花を、白く細長い苞の下につける、と英和辞書に説明があった。
私が見たのは、その白い苞だったのだろうか。それとも、黄色とはいえ淡い淡い黄色で、散り落ちると白っぽく見えるのかも知れない。
辞書によると、日本で〈菩提樹〉と呼ぶのは、原産地はインドで、クワ科のテンジクボダイジュの別名なのだそうだ。お釈迦様がこの木の下で悟りを開かれたとされ、インドでは無憂樹・沙羅双樹・菩提樹が三大聖木とされているという。オランダで見たシナノキとは、科や属が違っていた。
もうひとつ〈ゴールデンレイン〉の花についての余話がある。帰国後に、 倉敷の幼友達(あのピンク色の手造りパーテイ用バッグを贈ってくれた人)に、旅の思い出話を手紙で書き送って、この花のことを書いてみた。
するとすぐに電話がかかってきた。
「黄色の藤ならな、うちの庭にあるが。キングサリと言うてな。アメリカやヨーロッパじゃ、ゴールデン・レインとか、ゴールデン・チェインて言うんじゃて」
私はビックリ仰天、日本にもあるんだ! しかも彼女の家の庭にもあったのだ、と驚いてしまった。何度も遊びに行っていたのに、まったく気づかないままだった。花の咲く時期を逃していたのだろうか。
その上さらに驚いたのは、その木には〈毒〉を含んでいる、ということを、ファックスで知らせてくれたことだった。
「キングサリ」の項に「欧米ではかなりの大木に育っているのを見かける。並木にもよく使われる。美しい花木だが、木全体にアルカロイド系の毒性分があるので、注意したい。乾燥ぎみの肥沃な土壌で、日当たりのよい場所に植えると、花付きがよい・・」 と、何かで調べた文なのか、書き添えてくれてあった。
ふうん、あの美しい木には毒があったのか。美しさの陰にある毒! バラの棘のように・・。
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