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7章 - (8)1年生終了(最終回)

志織姉からTELがあった。これまでも携帯でメールのやりとりを頻繁にしていたが、2月も末近くに、週番に呼ばれて、電話室に急いだ。

「あのね、オリ、今日横田先生に言われたの。パパは退院して、リハビリ 通院を続けましょう、って。検査をしたが、今のところ動脈瘤は見つからず、再度の脳梗塞はしばらくなさそうだ、とね。退院後も、訪問看護師の 手配を、ケアマネージャーの方がしてくれて、ママも助かると言ってた」
「よかったねえ、パパが退院できて。ずっと気になってたの」
と、香織はほっとした声になった。

「それでね、おにいとあたしは、アメリカとカナダへ帰ることにしたのよ。あたしも猛勉強して、遅れを取り戻さなくちゃ。きっとレポート課題がどっさり出されるけど、頑張るわ。バイトの方もね」
「おねえちゃんはやれるもんね、信じてる。お兄ちゃんの奨学金は?」
「もらえることになってるの。グレゴリー教授が力になってくれてね。  おにいは有望だって、認めてもらえてるみたい」
「よかった! わたしって、優秀なお兄ちゃんと、すごいおねえちゃんを 持ってるんだね!」
「今頃、知ったか! オホン!  香織もなかなかだよ、自信持って2年生に   なるのよ」

香織は自室に帰りながら胸なで下ろしていた。パパ、リハビリして歩けるといいね!

香織の編み物はずっと続いていた。最近は週4枚のペースが守られていた。週末の支援隊来室も、続いていて、前田さんの計算によれば、1Bクラスの残り44名全員に、アジサイニットが行き渡るのは、2年生になる2週目の頭くらいだって。

すると姉のいる横井さんが言った。
「このクラスのまま、持ち上がりになるのよ。先生もそのままでね」
「それなら、オリ、学年末テストの時は、編むの止めても平気よ。春休みにおうちに帰って、ゆっくり編めばいいのよ。無理しないでね」
と、佐々木委員長が言ってくれて、香織も気が楽になった。

3月の第一週には最後のテストがあった。香織は毎日の予習復習を続けて きたので、少しは楽な気分で、試験用紙に向かうことができた。それだけ でも、この1年で香織の気持ちが、かなり変わってきたのだと、自分でも わかった。

3月半ば、3年生たちの卒業式があった。寮の先輩たちは半分くらいが着物姿で、半分はスーツやワンピースの華やかな洋装で、講堂に向かった。  2年生は参列を許され、1年生は校庭で自由に時間をつぶして、3年生たちが出てくるのを待った。

総代は香織の思った通り、渡辺恒美さんで、すばらしい答辞を述べ、卒業 証書を代表として、1番に受け取ったそうだ。このことは、元かえで班長の瀬川春子さんが、誇らしそうに香織に話してくれた。渡辺さんは東大にも パスしていた。渡辺さんの彼氏も東大だって。

寮の3年生たちは、予定していた念願通り、寮の玄関前で、江元先生を囲んで、〈額縁アジサイ〉を持って、記念写真を撮った。もちろん香織も引っ張り込まれて、江元先生の隣に並ばせられた。  

終業式の前日、若杉先生が朝のホームルームに現れ、3学期の成績表を皆に配布した。
「この1年、皆よく頑張ったな。元気で誰も休学する者はいなかったし、誰も落第せずにすんで、喜ばしいことだ。来年もこの僕が、このクラスを持ち上がりとなるが、来年もよろしくな」
「2年になっても若さま先生で、ほんとによかったです! 持ち上がりだと姉に聞いてて知ってたけど、やっぱりすっごくうれしいでーす」
と、香織の隣の席で、横井さんがはしゃいだ声を上げると、他の人たちも 笑いながら、さんせーい、よかった、うれしいでーす、が飛び交った。

「君たちはクラブの方でもいい成績をいくつも上げてるね。卓球部の内田 さん、油絵の鈴木さん、習字の坂本さん、それぞれ受賞したよね」

「それ言うなら、だんぜん笹野香織さんですよ、先生。文化祭のあの編み物は今もまだ続いているんですもの」
と、また横井さんが声を上げた。

「言うつもりだったよ。笹野は勉強も実によく頑張ったし、編み物支援隊ができてることも、ミス・ニコルから聞いてる。2年生になっても、皆応援してやってくれるな」

クラス全員が大きな拍手をくれた。香織は思わず立ち上がって、頭を下げた。こんな日が来るなんて・・と胸いっぱいで、涙ぐんでいた。

その晩、結城君から電話があった。メールは短いのをしょっちゅうやり取りしていたし、電話室での電話にも、よく呼び出されていた。
「あすは終業式で大阪へ帰るだろ。時間は何時に出るんだ? 送るからね。それとさ、ポールとパパ様を見舞いに行くことに決めてるんだ。通院の日とか、訪問者お断りの日があったら、前もって知らせて・・」
「ん、知らせる。パパ、きっと喜ぶよ。でも、言葉はまだちゃんと話せないから、そのつもりでね」
「わかってる。声聞いてるうちに、逢いたくなった。今から行くぞ。寮の 玄関で待ってな。また夜の散歩しよう!」
「クフフ、嬉しい、待ってまーす」
「寒くないように、だけどもうクマさんじゃなく、だよ」
「クフフ、そうね、もうちょっとかっこよくね、金のネックレスを忘れずに・・」 

   (終)


(推敲不足の作品を読んで頂いて、恥じ入っております。いろいろ事情が ありまして、数ヶ月ほど、創作はお休みしようと、決めかけていたのですが、せっかく連続掲載を続けてきましたので、別の形で続けることにしま した。趣を変えて、「旅行記」その他を載せることにしました。お目通し 頂けましたら、幸いです。
これまで、毎日の創作記事を、ツイッターに載せていたましたら、ある日、「アカウントを入れよ」という欄が突然出てきたので、何のために?入れ ないとツイッターに載せられないの?と気になるやら、拒否反応を起こしてしまい、その日からツイッターそのものに、触れないことにしました。  ウエールズさんとユタカさんには、特に毎回必ずツイッター欄にスキを頂き、質問にもお答え下さいましたし、他の方々もお目を通して下さって、 本当に有り難うございました。どれほど励みになったことか、嬉しかったか、伝えきれない思いです!)

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