見出し画像

10-(4) ストライキやる?

みんなでありったけのパンを引き出すと、教卓の上にはうすぎたないパンの山ができた。

「これでぜんぶみたいじゃ。数えてみる?」

と、裕子が言い出して、いくつか机を寄せると、数えながら移し始めた。 運動会の玉入れの玉を数えるように、ひとーつ、ふたーつ、とみんなで声を合わせた。マリ子も机の上に座ったまま、大きな声で加わった。

なんだかゆかいでならない。先生のかくしておきたい秘密のとびらを、皆でこじ開けているみたいだ。先生への仕返しをしているみたいで、わくわく する。ちょっぴり恐い気分もする分、よけいドキドキする。

「・・60,61!」

なんと、全部で61個ものパンが、かくしてあった。

それからだ。日頃の先生への不満が、爆発した。みんなが口ぐちに叫んだ。

「なにが、教室をきれいに、じゃ。自分がいっちゃん、汚しとるが!」
と、まゆ子がわめくと、勝子がすぐ続けた。

「こそこそかくして、知られんと思うとる! きったねぇ!」

裕子まで興奮して叫んだ。

「おなごはおなごらしう、じゃて、あほらし! 男女同権を知らんのじゃろか。先生は遅れとる。うちらが教えちゃらにゃ!」

「さんせい! あげな先生やこ尊敬できん。だいだいだいきらいじゃ!」
と、だめ押しのように、またまゆ子が言った。

その点では、だれも異論はなかった。むしろ、胸にたまっていた不満をおおぴらに口にできて、気がせいせいしていた。

それから続いて出たのは、男子への不満だった。

「そうじ当番になっても、さぼってばぁじゃ。うちら女子に押しつけて、 いつじゃって逃げて帰っとるが」

と勝子が言えば、物静かな小川妙子が口をはさんだ。

「男子の方こそ、罰そうじをやらしゃええのに、なんでうちらがせんと   いけんの」
「それもタヌキのせいじゃ。男子に甘いんじゃけん」

まゆ子は最後にこう言って、びしっと決めつけると、またつづけた。

「なんでもすぐ、ええ嫁になれんていうて、いやな仕事はすぐ女子に押し つけとる!」

まゆ子の眉がぐっとつり上がって、止まった。何かひらめいたのだ。

「ストライキじゃ。あしたからストじゃ!」

みんなは顔を見あわせた。

「どうやって?」
「子どもでも、できるん?」

妹尾鈴江が心配そうにたずねた。
「新聞に出とるみたいに、すわりこむん?」

まゆ子もそこまでは考えていなかったらしい。

「うーんと、そうじゃなあ、なんでもええ、うちらのだれも、そうじは  せんのじゃ」

その時、いつもはひかえめな学級委員の三上裕子が、小声で思いがけない 事を言った。

「うちらが男子になりゃええが・・」

いっしゅん、みんなしんとなった。それから、うわあ! と爆発した。

「それ、ぜったい、ええわ!」
「そうじゃ、男子になりゃ、そうじせんでもええもん!」

「うち、じゃのうて、わし、オレ、て言うんじゃな!」

マリ子もいっしょになって、手をたたいて叫んだ。みんな肩や手をたたき 合い、とびまわり、この時、女子は心をひとつにしていた。

ところが、つぎのしゅんかん、みんなの視線がいっせいにマリ子に集まった。マリ子はきょとんとした。それから、ドキンとなった。鬼まつりで男になったの、ばれたかな。知らないのは、マリ子だけで? でも、ちがってた。

「マリちゃん、教えてなっ」

まゆ子がみんなを代表するみたいに言うと、みんなはしっかりとうなずいた。それから、さっそくマリ子のまねをして、まわりの机の上にどんっ! とすわった。

なんでうちが? マリ子はたじたじだった。たしかに決闘もしたけど、ふだんはおとなしいつもりなのに・・。なんで? と抗議するひまもなく、マリ子の一挙手一投足が〈男子まねごっこ〉のモデルとなることになった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?