1-(6) 思いがけないふろく
おはやし隊が進につれて、道の両はしに並んだ大人たちが、拍手で迎えて くれる。マリ子を見つけて、ささやき合う声も聞こえた。
「あの子はだれかな?」
「借家の先生とこのマリちゃんじゃて」
「かすりの着物もええなあ」
西浦の村道を一周し寺の境内に戻ると、今までがまんしていた皆の声が、 いっせいに吹き出した。
「手がしびれてしもうた」
「わしもじゃ」
大だいこを叩き続けたしげると、小だいこの俊雄が両手をぶらぶらして みせた。
加奈子はこっぽりげたを、うらめしそうに見た。
「いたーい。足にまめができてしもうた」
静江はマリ子を手招きした。
「写真とってもらお。マリちゃん、着物が着れてよかったな」
マリ子はうなずいて、くるくるっと回ってみせた。わらぞうりにもんぺ だから、まだいくらでも歩けそうだった。
加奈子は横目でちらっとマリ子を見た。でも何も言わず、静江のお兄さんが写真機をかまえると、マリ子の横でおすましして、胸をはってポーズを 取った。
川上のおばさんが手をメガホンにして、声をかけた。
「みんな、おなかがすいたじゃろ。早う着がえて、楽器は箱にしもうて から、3時をおあがんせえ」
庫裏 (くり) の廊下には、婦人会のおかあさんたちが差し入れた、赤飯の おにぎりや海苔巻き寿司がどっさりならべられ、いい匂いを立てていた。
3時のおやつと聞いて、みんなはわっと散らばった。寺の着がえ室に 走る者。着がえに家に帰る者。マリ子たちおはやし隊は、正太の家の 納屋に向かってかけた。
マリ子は台所で大急ぎで着がえた。
普段着に着がえたみんなと、寺に戻っておなかいっぱい食べた。
「あしたの始業式、いっしょに行こうな」
静江は、普段着に戻ってせいせいしたように、おすしとにぎりめしを持ったまま、マリ子に言った。マリ子はうなずき返した。
「ん、お寺の階段の下で待っとるけん」
すると加奈子がわりこんできた。
「あんたら、うちをハネにする気? うちが一番西の家じゃけん、マリッペはうちがひろうて行くが」
「そうじゃね、うちは東の最後じゃった!」
静江はおどけて、3人で笑った。
そんなわけで、次の日からは、毎朝、加奈子がマリ子をさそい、その後 静江が加わって、3人そろって登校するようになった。
それから、何日かたって、静江のお兄さんが写してくれた写真が、 思いがけない〈ふろく〉をマリ子にもたらした。
おかあさんがつくづく写真をながめたあげく、マリ子のためにかすりの 着物地を買ってくれたのだ。
何日もかけてぬい上げると、おかあさんはつっ立っているマリ子をくるくる回して、着物を着せ、赤い帯をしめた。
「いいのができたねぇ、マリちゃん。おまつりやお正月に着れるよ」
おかあさんは自分のができたみたいに、うれしそうだった。でも、マリ子は2,3歩歩いてみただけで、さっさとぬいでしまった。
「もんぺじゃないもん。ゴムとびはできんし、自転車に乗れんし、走れんし歩けんし、うちはいらん。お兄ちゃんにあげて!」
ふりむきもしないで、マリ子は外に飛び出した。そう言わずにはいられないけれど、やっぱりおかあさんの顔を見てはいられないのだった・・。