ツナギ8章(4)また揺れが・・
作業は順調に1週間ほど続き、屋根の土台が整ってきた。この頃には、八木村から戻ったウオヤが屋根の上で、鼻歌を歌いながら、陽気に作業に加わっていた。
垂木を張り巡らした後は、本格的に屋根材のアシの束をくくりつけていき、水で練った土をかぶせ、さらにアシを重ねていく。
ツナギは縄仕事を終え、梯子伝いに屋根の上へ土を運ぶ仕事を受け持っていた。家の外の地面に山にしてある泥土を、カメに詰め、片腕でかついで、運び上げるのだ。
ヤマジやシゲが土に水を加えてこね、シオヤとナメシヤ、トナリの父親たちも運び役をしていた。重いカメを抱えて、1段ずつ辿って行くのは、ツナギには汗ばむほどの緊張感があった。1度に運べるのは、ほんのわずかで、床(ゆか)を深く掘って出た土は、きりもなさそうだった。
屋根の外側に立てかけた梯子を、何度も繰り返して上り下りして、へとへとになりかかっていた。やっとの思いで梯子の中程まで進んだ時、ゴーという地鳴りがしたと思うと、グラッと家全体が揺れた。梯子がグイッと傾いた。
ツナギは思わずカメを放って、梯子にしがみついた。揺れは続く。梯子がしなって、メキメキ音を立てる。今にも折れそうで、必死で梯子にすがりついた。
右手の方で悲鳴が上がった。ザザザザ、ドサッ、ドサッと地面に落ちる音。3つ4つ! 誰かがすべり落ちた! ヤマジとシゲが鍬(くわ)を放って、駆け寄った。まだ揺れはユッサユッサと続いている。
「大丈夫か! オリヤにウオヤ! やっぱり痩せのひょろだなあ。・・おいおい、がっちり組のトナリにオサまで!」
ヤマジが叫んだ。えっ! オサが! ツナギは揺れる梯子を下りながら、そちらを見た。泥土の中にめり込んだカメを飛び越えて、ツナギも側へ駈け寄った。
トナリとオサは地に倒れてうめいている。オリヤとウオヤはなんとか立ち上がっていた。
「折れちゃいない。打ち身だ。元気出せ!」
ヤマジがオサとトナリの腕や脚を押さえてみたあげく、怒鳴るように言った。
見上げると、ゲンとカリヤはアシの束に埋もれるようにして、屋根にしがみついている。
モッコヤは梯子を下りてきた。垂木に縛りつけたアシや土が、あちこちで バラバラと崩れ落ちている。4つある梯子のひとつが半分斜めに倒れかけている。トナリはあの梯子から落ちたのだ。
「いつまで続くんだ、揺れは。こう大きく揺れるとは」
モッコヤが恨めしそうに屋根を見返した。揺れはおさまってはいたが、いつまた起こるかわからなかった。ツナギは思わず口に出した。
「じっちゃは3年経ってもまだ揺れたって言ってた」
6代前のドンじいの時の言い伝えと、壁に記された模様で、揺れの記録は残っている。
そうか、今日のこの揺れも自分が描き入れなくては。村が流されたあの大揺れほどではないにしても、海の水まであふれては来ないにしても、ツナギには、あの時に近いほど充分に大きな揺れに思えた。
まだ起き上がれず唸っているオサの代わりに、モッコヤが大声で言った。
「みんな、とにかく下りて、集まれ!」
こんな時、じっちゃならどう言うだろう。ツナギは思った。今ごろ洞でも 騒いでるはずだ。
「やれやれ、暮れまでには終われそうもないな。あの崩れをまず直さねば」
モッコヤが屋根を見上げて、つぶやくように言った。
「でも、家はつぶれてないし、前の時ほどひどくないよ」
と、ツナギは声を上げた。じっちゃなら、きっとそう言う。すごいことだ、りっぱなものだよ、と。元の村の家々は、大きく崩れていたのだから。
「たしかにな。ここまではしっかりできてる。手は休めず、続けねば」
オサがやっと身を起こして言った。モッコヤがその姿を見て続けた。
「いや、少し休もう。それと持ち場交代はどうだ? オサとトナリは痛みが治まるまで、下で土の準備はどうだ? ナメシヤとシゲが代わりに屋根仕事は」
「おう、そりゃあいい。肝を冷やしたら、腹が減った。のどもからからだ」
ウオヤがすぐに答えた。皆もそれに気付いて、ほっと肩の力を抜き、てんでに丸太に腰を下ろした。
ゲンとカリヤの後からツナギも、朝持参してきた水と団子を取りに走った。