バイオロジカルを超えてく君がいた



20歳から26歳まで、大恋愛をしていた。


彼とは、2016年の夏に総武線快速の列車の中で出会った。背が高くて細くて、朝の満員電車の中、猫背気味で吊り革を掴んでいた。
目が合った。お互い一目惚れだった。



「君の名は。」が流行った夏だった。もちろん2人で観に行った。
映画の途中でどちらともなく手を繋いだ。
海の底のように冷たい映画館の中で、かすかに脈を感じながら、人の体温はこんなに暖かいんだ、と感動を覚えた。


彼の大学は中央線沿いにあった。興味があって一緒に授業を受けた。私は途中で爆睡してしまったため、「よく分からなかった」と言うと、「また来なよ」と、彼は微笑んだ。笑うと目が無くなるタイプの人だった。初めて男性を可愛いな、と思った。


喧嘩をすると、彼はいつも何か言いたげな顔をし、下を向いて唇を尖らせる癖があった。なんとなくそれが捨てられた子犬みたいで愛おしくて、怒りながらもその顔を見ると気が抜けていた。

色んなところに行った。彼と思い出を作るのがとても楽しかった。


始まりがあればいつか終わりがくる、それは平家物語の冒頭にも言われているように諸行無常、世の常だ。終焉に怯える私は彼の寝顔を見ながらよく祈った。
「彼を失うことがありませんように」


その後就職し、色々あって彼とは3回ほど別れ、空白がありながらも縒りを戻したり、関係が続いていた。

何かが彼を変えていっていたのは明らかだった。
それは元々の彼の性だったのかもしれないが、今ではもう全てが分からない。


なんとなく、彼とはもうほんとに終わるだろうな、そう思っていた頃、他に好きな人が出来てしまった。別れてほしい、散々迷惑かけました。あなたには2度と会いません。そう言われて、6年間続いた関係は完全に終わった。他人の心に鍵をかけることは出来ないので、心変わりは仕方ないことだ。彼のことは憎んでいない。


別れ話で最後に会った時は、またあの捨てられた子犬のような表情をしていた。
でも、それを見てもう愛おしい気持ちはなかった。4度目の慣れた別れ話、涙も出なかった。


その後、私にも新しく好きな人が出来て、彼のことは上書きされた。あんなに大好きで長期間関係があったのに、新しい恋愛をしたらこんなにも簡単に忘れるのかと自分でもびっくりした。しかし、総武線に乗ると、夏になると、彼のことを思い出してしまうのだ。

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