リーズナブルじゃない

　実家の小さな車一つ分の荷物だけを持って静岡に来た。増えた物はほとんどない。ハンモックと、折り畳み机と、耳に開いたピアス穴くらい（正月の親族の集まりで年下のいとこたちは羨ましそうに僕の耳をじっくり観察した。親族の中にそういう人、つまり、定職に就かず、フラフラしていて耳に穴が開いている、実に典型的な人間というのは僕しかいない）。だから帰る時も同じように帰るのだと思っていた。
　夏休み、連休、年末年始は仕事が終わったその日に実家に帰った。実家が好きだし、アパートに一人でいると落ちていく時の浮上方法がないのでそのうちゲロにまみれて窒息死するか、過呼吸で窒息死するか、いずれにせよ何かしら手遅れになりそうで恐ろしかった。鬱期は仕事から帰ると、ずっとアパートの部屋で丸まって早く帰りたい帰りたいと泣いていた。