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退職日記1 よなす走り出す

もうだめだ。終わった。よなすは走った。どこへだ。退職に向けてだ。もう走り出してしまうしかなかった。よなすは諦めた。俺は親戚の集まりに一人はいる何してるかよう分からんおじさんポジションにつくのだと思った。

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日頃の覇気のなさと挙動不審についてのタレコミがあったらしく、人事に呼び出された。元気はたしかにないが、幼いころから元気100%でも「元気ないね」と言われる人生を波乗りしてきたので、取り繕えていたのか本当に元気のなさが露呈していたのか、定かでない。友達にプレゼント渡される時は、嬉しいのがちゃんと顔に出てるかとても緊張する。

普段の仕事の様子を諸々話し終えたところで面談相手が「なんだかよなかくんの様子がおかしいって話が周りから上がっていたけど…大丈夫そうだね」と安心した顔で言った。様子がおかしいと言われているのはあまり大丈夫じゃない気がしたが、相手が安心しているのだからそれでよしとした。様子がおかしいのは生まれつきだと母親も言っていた。

最後に「何か言っておきたいことある?」と聞かれたので、
「あの、今話すことじゃないかもしれないんですが…」と前置きをしてから、少し考えるフリをした。

「三月いっぱいで辞めようと思ってます。」

 相手はえ?という顔をした。多分このタイミングでは、なかったな、と思った。

あ、えっと…大学に戻ろうかと思っています。えっと、今までとは違う分野で…。はい。え?いやあ…分かんないです。とりあえず勉強しようかなって。

目の前にいる面談相手が物体に見えて、自分の声が遠くに聞こえた。膜を通したような世界を見ながら、ああ、自分の人生を自分で動かす時ってこんな感じなんだなと思った。

今後の身の振りを根堀葉堀問う質問に対する答えの覚束なさ。なんだか、辞めるために辞めるみたいだ。

正直何故辞めるのか自分でも未だによく分かっていない。働くのは結構好きだ。いい会社だと思うし、ホワイトだし、人々は優しい。だけど、もうダメになってしまった。

いや、辞めたい理由も、辞めてからやりたいことも、あるにはあるのだけど。どれも多分一般的には小さくて些細で「え、それ辞めなくてもよくない?」と言われそうだし、言われたら「まあ、そうかもねえ」と言ってしまいそう。意志薄弱。
辞めるメリットよりデメリットの方が絶対に大きいんだろうなと思いながら何故か辞めていく。自分。なぜ。分からん。

愚直に頑張って、入りたかった出版社に入って、それなりにやってきたつもりだったけれど、ダメになってしまった。心を病んでしまったし、週末は原因不明の不安に押しつぶされて日がな横になっている。そんなんで会社を辞めてどうやって生きていくのか。それについてはプランはないが不安もない。あれ。いい感じに韻を踏んでしまったな。プランはないが不安もねえってフランクに言う俺のスラング、yeah。こりゃ韻を踏みまくってしまったな。

将来の不安なんて、明日会社に行かなければいけない不安に比べたらしょぼいもんなのだ。今は安らかに眠ることが目標だ。

我慢が足りないんだよ、とか、新人はそんなもんだよ、とか、慣れるまで頑張りなさい、とか、そんな言葉をさんざ耳にしてきた。じゃあいつまで大丈夫じゃなかったら諦めていいのだろうとずっと考えている。考えても分からない。
なので、いろんな場所に行ってみて「これぐらいは我慢しなければ生きていけないのか」「このぐらい辛いのが普通なのか」という結論に辿り着いたら、絶望しながら我慢して、辛い世の中をなんとか生き延びようと思う。

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よなすは走り出した。退職に向けて。甘ったれと言われてもかまわん。果たして無事退職出来るのか。それは誰も知らない。

#エッセイ #日記 #退職エントリ