話したい

死と出会い 19話 互いの話したいこと

今日は天気が悪かったので母に学校まで車で送ってもらった。愛理は朝、学校で僕に話したいことがあると言った。一体なんだろう。僕も話したいことがあった。それともうひとつ。麗香先輩との関係も上手くいけば、それも伝えたいと思っている。

#死と出会い #互いの話したいこと #小説

 翌日、僕は学校に八時過ぎに着いた。生憎の雨。風も強く傘をさせない天気の悪さだったので母に頼んで高校まで送ってもらった。母は四十二歳。十年前からうつ病を患っていて、二回入院している。でも、今は調子も安定しているようだ。服薬とデイケアという精神的なリハビリをする所に月曜日から金曜日まで毎日通っている。自分の母を褒めるのは何だか変な感じだけれど、病気があるのに家事とデイケアの両方をこなしているのは偉いと思う。
将来的にはパートでも良いから働くことを目標にしているらしい。母に送ってもらったお陰で学校にも来れた。

 今日は麗香先輩に昨夜僕がどうしたいかを考えたのでその思いを伝えるつもりでいる。今日も放課後に部活がある。もし、天気が悪くて一緒に帰れないようであれば校内の人気の無い所で伝えようと思っている。帰りは雨が上がっていれば徒歩で帰るし、まだ雨が降っていれば母に電話をして迎えに来てもらう。そういう話をしてある。

 教室で愛理と顔を会わせた。彼女には、もし麗香先輩と交際出来たら言おうと思っている。親友だから話しておいた方が良いだろう。そう思っていた僕が後々大変な思いをするとは露知らず。
「おはよう、愛理」
「おはよー」
何だか彼女は元気がないようだ。どうしたのだろ。
僕は愛理から話し掛けられるまで黙っていた。すると、
「今日、部活あるの?」
と、訊いてきた。
「うん、あるよ」
「ちょっと話したいことがあってね……」
愛理は何だか深刻そうな顔つきだ。
「昼休みで良ければ聞くよ?」
「……他の人に聞かれたくないの」
何の話だろう、気になる。
「今日、部活終わったらちょっと用事があるのさ」
愛理は急にムッとした表情を見せた。
「じゃあ、いい!」
急に怒りだしたので、
「どうしたんだよ? 絵里ちゃんの時くらいから様子がおかしいぞ」
と、言うと、
「何で気付いてくれないの?」
僕は、何のことを言っているのか本当に分からなかった。なので思い付くことを言ってみた。
「もしかして、雄二のことか? 僕も愛理に話したいことがあるんだ。とりあえず、先生は気付いていないんだけど」
彼女は僕の発言に不思議そうな表情を浮かべた。その時、教室のドアがガラッと開いて担任の先生が入ってきた。
「おはよう!」
と、大きく低い声で僕達に挨拶をした。クラスメイトは各々席に着いた。
おはようございます、とまばらな挨拶だった。担任の篠原圭司先生は白髪混じりの長髪で後ろに束ねて縛っている。体型はお腹が出ていて恰幅が良い。結構、迫力がある。でも、女子には人気がない様子。授業の教え方はわかりやすいと僕は思うけれど。

 朝のショートホームルームを終え、昼休みに愛理を外へ連れ出し、僕の話を聞いてもらうことにした。
「どうしたの? 話って」
僕は愛理には話さなければならないと思って口火を切った。
「実はさ、新たないじめを発見したんだ」
「え!」
「やっぱ、愛理なら驚くよな」
「うん。雄二のことがあったから尚更ね」
「だよな。それがさ、隣のクラスのC組の下川原なんだ」
「彼がいじめているの?」
「いや、逆。上級生からいじめられてる」
「上級生……」
愛理はそれ以上話さなかった。
「僕も相手が上級生だから見付けた時怖くなって逃げて来ちゃったんだ」
僕は思い出して、気分が暗くなった。
「どうしたらいいと思う?」
僕がそう言うと、
「どんなことされてたの? 下川原君は」
愛理は毅然とした態度で言った。
「それは……お金を要求されてた……」
「そうなんだ。それって私が思うに、何度もあったんじゃないの?」
「……そうかもしれない」
愛理は深呼吸した後、
「それは、先生に言うべきよ」
「でも、密告したら僕が標的にされそうだな……」
愛理を僕を睨んだ。ぎょっとした。
「じゃあ、私が言うよ!」
「え、でも……」
僕は不安に駆られた。大丈夫か……。
「秀一はこういう時、意気地がないよね。困ったもんだ」
僕は何も言えなかった。確かにそうだ、愛理の言う通りだ。でも……。やっぱり、僕には密告は出来ない、怖いから。
「じゃあさ、こうしようよ。私が先生にチクるから、秀一は下川原君から話を聞いてみてくれる?」
「わ、わかった。それやる」
僕は焦ってしまった。
「じゃあ、そういうことで。じゃあ、今度は私が話す番。いい?」
「うん」
と、僕は頷いた。
「私ね……」
愛理はゆっくりと話し始めた。












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