死と出会い 24話 呼び捨てに対する思い
僕は絵里ちゃんのいる学校に行き、きっぱりと彼女が出来たということを伝えて断った。麗香にも相談したいことがある。
絵里ちゃんがいる中学校の校門に来た。
もう帰ってしまったかな、と周りを見渡した。
いる様子はない。生徒もまばら。
空はどんよりと曇っている。
時間的にはいつもの時間帯に来たけれどいない。
どうして、生徒もまばらなのだろう。
何だか様子がいつもと違う気がする。
今は夏なのに、ここが北海道だからなのかあまり暑くない。
日射しもそれほど強くなく、過ごしやすい。
でも、肝心の会沢絵里がいない。少し待つか。
そこで約15分待った後、ようやく彼女は友だちとやって来た。
笑顔で、
「秀一さん、こんにちは! お久しぶりです。元気でしたか?」
と、言った。
僕は表情を崩さず真顔で言った。
「今日は話しがあって来たんだ」
何かを察したのか、僕の表情に釣られてなのか絵里ちゃんから笑顔が消えた。
「実は……僕に彼女ができたんだ。だから……だからもう会えない」
彼女から驚愕の表情が見て取れた。
「相手は愛理さんですか?」
僕は大きく頭を左右に振って否定の意味を示した。
「絵里ちゃんの知らない人だよ」
彼女の表情に影が射した。
「そうですか……。でも、愛理さんじゃなくてよかったです」
「どうして?」
「愛理さんだったら絶対に負けたくなかったからです」
僕は思わず吹き出しそうになった。
「何で愛理なら負けたくないの?」
少し考えて、
「うーん、何でだろう。一応、先輩なので敬語は遣ってますが、先輩とは思っていません。対等だと思っていますから」
僕はそれを聞いて驚いた。
「そんなこと思ってたの?」
「はい」
僕は心の中で、生意気だな、と思った。言ってはいないけれど。
「何かいけなかったですか?」
その発言に堪忍袋の緒が切れた。
「絵里ちゃん、対等に思っているのは間違いだ! たとえ愛理でも先輩は先輩で変わらないはずだ」
強い口調でそう言った。
「……やっぱり、秀一さんは愛理さんの肩を持つんですね」
「そういうわけじゃない! 一般論を言っただけだよ」
「……わかりました。これ以降、愛理さんや秀一さんと出会っても知らんふりを通しますね」
「それでもいい!」
頭に血が昇った僕は、そう言ってその場を後にした。
絵里ちゃんがあんな子だとは思わなかった。腹が立つ。でも、もうどうでもいいやと思った。
それから麗香にメールを送った。
[今、話しついたよ。これから会えそう?]
メールはすぐに返ってきた。
[うん、会えるよ。後でさっきのこときかせてね]
[わかった]
と、すぐに返事をした。
[どこで会う?]
と訊くと、
[スーパーの椅子があるじゃない? そこが空いてたらそこにしよう]
[わかった]
と、トントン拍子で話は進んだ。この小さな町でスーパーマーケットと呼べる建物は一カ所しかない。だから、ここの住民ならすぐにわかるはず。
僕は自転車で十分ほど走ったところにあるスーパーに到着した。
麗香はまだ、来ていないようだ。
彼女の自宅から店まで何分くらいかかるのだろう? なんせ、行ったことがないから見当もつかない。それもそうだろう。付き合い立てだから、お互いの家を知らないのも無理はないと思う。
それと麗香に相談があるのだった。それは、同級生がいじめを受けているということ。雄二のように最悪の事態は避けなければならない、絶対に。
待つこと約十分。麗香が自転車で急いでやって来た。
「ごめん、待たせて」
「いや、大丈夫。そんなに待ってないよ」
「じゃあ、店の中入ろうか」
「うん」
そう言って入店した。中は、そこそこお客がいた。
僕らはまず、飲み物とフライドポテトを注文した。そして入り口付近の席にちょうどふたり用の椅子とテーブルがあったのでそこに座った。
麗香は、
「それで、会ってきたんでしょ? 中学生に」
「うん、会ってきた」
「どうだったの?」
「きっちり断ってきたよ」
「おー。そうなんだ。よかった。もしかしたら丸め込まれて向こうの言いなりになってたりして、と思っちゃった」
「それはないよー。相手は女子中学生だし」
僕は苦笑いを浮かべた。
「でも、女って大人だからさ。これでも心配していたんだよ」
「心配かけてごめんね」
「いや、解決したならいいの」
頷いた僕を見て麗香は笑っていた。
こうやって、麗香、と呼び捨てにしているけれど本当にいいのかな。何だか今になって気がひける。でも、本人がそれでいいと言っているし。優柔不断な僕は自分の意思と相手の意思が違う場合、本当に迷う。よくないと思うけど改善されない。一度、訊いてみようかな。訊きにくいけど。
「訊きたいことがあるんだけど、いい?」
「なに?」
「このまま呼び捨てでいいの? 気が引けるんだよね」
「今更なにを」
と、麗香は笑っている。
「もっと気持ちを強く持って! 大丈夫だから」
「わかった!」
僕は語尾を強くして答えた。そこで、以前から思っていたことを口にした。
「麗香はキレイだよね」
すると、満面の笑みで、
「ほんと? うれしい!」
そう答えた。言ってよかったと思った。口下手な僕がようやく言えたことば。精一杯と言うべきか。僕なりには頑張ったつもり。
「秀一もナイーブに見えるのがいいところだと思うよ」
「ナ、ナイーブ? 否定はしないけど、言われたのは初めてだよ。ありがとう」
「結構、うち見てないようにしてるけど、見てるよ」
「そ、そうなんだ。それは怖いかも」
彼女は笑っている。
「なにも怖がることはないよ。ただ、切れたら自分でも抑えられない」
「そっか、怒らせないようにしよ」
「だからと言ってそんなに警戒しないでね。さみしいから」
「わかった」
さすがキャプテンをやるだけあって気は強いんだなぁ。これは、言っていないけれど。
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