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死と出会い 最終話 僕のこれからの人生

#死と出会い #最終話 #僕のこれからの人生

 宮崎先生と下河原と僕の3人で話をしてから1週間が経過する。その間、麗香と僕の会う頻度は変わらず毎日会っている。

 下河原に、
「よく飽きないな、毎日会ってて」
 と、言われたけれど、
「飽きる要素がないよ」
 と、言い返した。少なくとも僕は。麗香はどう思っているだろう。僕に飽きてきたのかな。そんな態度は見えないけれど。下川原の発言は何を根拠にそんなことを言ったか分からないが、まあいい。僕と彼女の木田麗香との関係は今のところ変わっていない。

 授業が終わって、宮崎先生に呼ばれた。掃除を終えてから職員室に行くと、既に下河原勝司は来ていた。
「おう、外川! 今、この前の件で話をしていたところだ」
「どうなりました?」
 と、僕が訊くと、
「上級生は最初、反抗的だったが下級生にはいじめを苦に自殺した奴もいるんだぞ、そうなったらお前のせいだぞ! いいのか?」
 と、言ったらすんなり、
「すみません、と言って下河原の財布を返してきたぞ。まあ、根は良い奴なんだろうけど、おだちたい年頃なのかな」
 そう言ってから下河原は宮崎先生から財布を受け取った。
「減ってないか確認したほうがいいぞ」
 そう言われて下河原は財布を開けて確認しだした。
「……3千円減ってます……」
 僕はそれを聞いて言葉を失った。宮崎先生は、
「これは、学校内だけの問題じゃないな。親にも話さないと、上級生の」
 僕と下河原は黙った。段々と問題が大きくなってきたからだろう。

「先生!」
 下河原はやや大きめな声を上げた。
「どうした?」
 宮崎先生は驚いた顔をしている。
「話が大きくなって、陰でまた嫌がらせされたら嫌なので、財布が返ってきただけで十分です。3千円は戻ってこないですけど仕方ないです」
 宮崎先生は、
「本当にそれでいいのか? いじめに泣き寝入りはよくないぞ」
 下河原はまた黙った。確かに陰でまた苛められるかもしれない。宮崎先生の言ってることは分かるけれど、気の弱い下河原の立場から考えるとそれも否めない。そのことを僕が再度宮崎先生に伝えると、
「まあ、確かに下河原は気の弱い部分はあるわな」
 宮崎先生は腕組みをして、うーん、と唸った。そして、
「そうだな。俺ら教師の見えないところでやられても分からんわな」
 僕らに沈黙が訪れた。
「そうなんですよね。だから、今回はこのままでお願いできませんか?」
「そうか。よくわかったよ。今回は親にはいわんよ。だが、この次いじめが発覚したら容赦なく親に言うからな」
 わかりましたと、下河原は返事をした。

 宮崎先生はそんなに親に言いたいのだろうか。まあ、いいけれど。
 下河原は気が弱いので逐一気になるのかもしれない。仕方ない。性格だからそんなに簡単に変わらない。

 そんなこんなで僕と下河原は帰宅した。

 麗香に会いたくなってきた。彼女はどう思っているかな。お互いが会いたい時に会うのが一番だ。

 僕は麗香にLINEを送った。
[これから会えない?]と。
少しして返事がきた。
[いいけど、もう5時よ? あんまり会う時間ないじゃない。明日じゃだめ?]
 その返事を見て僕はがっかりした。なんだよ、少しぐらい会える時間あるだろう。だが、
[わかった。じゃあ、明日ね]
 そう答えた。 
明日は日曜日。学校は休み。
[午前中からでも会いたいけどどう?]
 返事は暫く返ってこなかった。何ですぐに返ってこないのだろう。麗香は一体何をしているんだ。僕は段々苛々してきた。なので、電話をかけた。
「もしもし、麗香? LINE待ってるんだけどこないから通話したよ。何してるの?」
『ごめんごめん。今、親戚きてて』
   あ、そうだったのか。それは悪いことをした。そう思い、
「そうとは知らず電話してごめんね」
『うん。ちょっと待ってね。移動する』
 少しの間があり、
『もしもし』
 麗香の周囲は静かな様子。
「もしもし、大丈夫?」
『うん、今、外に出たから』
「そかそか。わざわざありがとう。LINEの話だけどさ」
『あ、うん。今、確認するね』
 既読になってなかったから見ていないのはわかる。
『今、見たよ。午後からは?』
 それを見て僕は腹がたった。さっきから僕の反対のことばかり言っている。何故だ。
「まあ、午後からでもいいよ!」
『怒ってるの?』
「別に」
 2人に沈黙が訪れた。そして、
『その言い方は怒ってるよ』
 僕は尚も黙っていた。すると、
『何が気に食わないの?』
「麗香はさっきから僕の反対のことばかり言ってる」
『そういうつもりはないけど、うちにだって都合があるよ』
「そうだね、ごめん。僕、自分本位になってた」
『それに気付いてくれたならもう何も言わなくても大丈夫だよ』
「ありがとう」
 僕はようやく素直に言えた。いつもならもっとすんなり言えるのが何故かなかなか素直になれなかった。彼女の、「もう何も言わなくても大丈夫だよ」という話に救われた。

 これからの時間は久々の読書に充てよう。ミステリー小説を読む。小説を書けたらいいなぁと、思うけれど書こうとしたことは確かにある。でも、難しすぎて書けなかった。残念。

 それから1時間くらいは読んだかな。文庫本の3分の1は読み終えた。残り3分の2で読み終える。面白い。近々、本屋に行って別なミステリーの作品を買おう。楽しみだ。

 夕食の時間になり僕は台所に向かった。母は一生懸命夕食を作っていた。それと父の晩酌する酒の肴と。今夜、父は何時頃帰宅するのだろう。たまに父とも喋りたい。何日も会話をしていない。でも、父と会っても何を話そう。最近の出来事かな、それとも悩んでいることを話そうか。でも、父は毎晩帰宅が遅いからなかなか会えない。いつ、休みなのかも未定らしい。今度、父と約束して一緒に食事でもしたいな。たまには男同士で語り合いたい。今夜もきっと遅いだろうから夕食の時にでも母に言づてしてもらおう。

 僕は居間に行き、テレビをつけた。ニュース番組の時間帯だ。交通事故や殺人事件、政治の話など明るい話題ではない。僕はこの時間帯は意識してニュースを観るようにしている。世の中のことを知るために。面白いわけではないけれど。

 夕食が出来たようで、
「秀一、ご飯よ」
 と、母に声をかけられた。
 台所に再度行くと、唐揚げだ。美味しそう! 席に着くと母がご飯をよそってくれた。
「腹減ったー、ご飯大盛りにしてよ」
 母はこちらを向き、
「なくなったら自分でよそいなさい」
 ケチだな、でも、まあいいや。僕は皿に唐揚げを4、5個取りがっついた。母さんの料理はいつも旨い。そのことを伝えると、
「あら、お世辞でも嬉しいよ」
 と、言っていた。お世辞じゃないんだけどな。麗香の作った料理も食べてみたいとふと思った。彼女はどんな料理が得意なのだろう。今度会ったら作って欲しいと言ってみよう。
「母さん。今度、父さんと3人で食事行こう?」
 母の表情が一瞬曇った。何故だろう。
「ちょうど3人揃ったら行こうね。お父さんも忙しいからいつになるかわからないけどさ」
 先程から母と喋っていて感じていることがある。それは、僕と父を会わせないようにしてる気がする。気のせいかもしれないけれど。

 母には、言っておいてね、と伝えた。少し浮かない表情だった。やはり……。僕は、気になってきた。気になり出すと止まらない性格の僕。でも、改めて訊くのも何だか怖いし。父は僕に会いたくないのかな。理由は何だろう。

 翌日。僕は八時過ぎに目覚めた。誰かが二階に上がって来る足音が聞こえる。母か? それともないとは思うが父か。

 僕は気配を感じていた。ドアの前で誰かが立ち止まって、ノック音がコンコンと聞こえた。
「はい」
 と、返事をした。
「秀一、開けるよ」
 言いながらドアが開いた。声の主は何と、父だった。
「父さん。久しぶり」
 僕は何も悪いことをしていないが、しばらく会っていなかったせいもあって、少し気まずかった。
「久しぶりだな。母さんから話は聞いてあるよ」
「あ、うん」
 一呼吸置いてから、
「今夜、三人で夕飯食べにいくか」
 僕は驚いた。あまりにも急だから。でも、僕に言われたから食べに行くのはどうかと思う。いくら母に伝言を頼んだのは僕だとしても。そうは思ったけど、
「うん、行こう」
 と承諾している自分がいる。
 今日は午後から麗香とデートをし、夜に家族で食事に行く計画。何だか楽しくなりそう。
 
 親友は亡くしたけれど、彼の分まで楽しく生きようと思う。木田麗香という年上の彼女もいるし、家族関係も順調に進んでいるし。出口愛理は……彼女とは、これから様子を見ながら接していこう。
 僕のこれからの人生は明るいものになるだろうと感じた。  

                              (終)

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