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仲間 第3話 女の持病

#てんかん #体で払え #軽い女 #奉仕

 早乙女亜由美は病院のベッドで意識を取り戻した。それに気付いた俺はナースコールを押した。天上のスピーカーから、
「どうしました?」
 と聞こえた。俺は、
「亜由美の意識が戻ったよ」
 伝えた。
「今、行きます」
 看護師の声。その後すぐに亜由美の声が聞こえた。
「いたたた……」
「頭痛いのか?」
「うん」
「今、看護師呼んだから」
 少しして看護師と医師がやって来た。医師は白衣を着ていたが、看護師は紺色の制服を着ていた。医師は40代くらいだろうか、白髪混じりで寝ぐせがついている。看護師はショートカットで60代くらいかもしれない。

 亜由美は俺に、
「ずっと居てくれたの?」
 言った。
「ああ、居たよ」
 女は笑みを浮かべて、
「ありがとう、優しいのね」
 俺はそう言われ照れくさかった。
「そうでもないよ」
 赤面していたからか、
「太一、照れてる」
 言いながら亜由美は笑っている。
「それにしても何で頭から血を流して倒れてたんだ? びっくりしたんだぞ」
「実はね、あたし病気を抱えてて」
 それは初耳だ、何ていう病気か訊いてみた。
「てんかん」
「てんかん? 初めて聞いた名前だな」
 俺が首を傾げていると亜由美は、
「薬をちゃんと飲んでいたら大丈夫なんだけど、発作が起きて倒れる時があるの」
 説明してくれた。俺は、
「じゃあ、倒れて頭をどこかにぶつけたのか?」
「そうね、テーブルあるじゃない、太一の家に。そこに倒れ込んでぶつけて気絶したの」
「薬は飲んでなかったのか?」
 俺が訊くと、
「ちょうど切らしてて、病院に行かなきゃって思ってたところなの」
 言うので、
「ちゃんと病院行けよ」
 俺は言った。
「でも、お金足りなくて。病院代貸して?」
「ああ、いいよ。お金返さなくていいから体で払え」
「わかった」
 変わらず軽い女だなと思った。でも、付き合っているからいいのか。
「いくら必要なんだ?」
「2500円」
 俺はテーブルの上に上がっている財布を取り、1000円札を3枚抜いて亜由美に渡した。
「ありがとう! 一生懸命、奉仕するからね」
「ああ、そうしてくれ」

 退院したら思いっきり抱いてやる、俺はそう心に秘めている。亜由美は、
「多分、明日退院できるんじゃないかな」
 言い俺は、
「そんな早くに退院できるのか」
 驚いた。
「だって、薬さえ切らさず飲んでいたら大丈夫だからさ」
「そうか」
「うん、退院する時荷物運んで欲しいんだけどいい?」
「ああ、任せとけ」
「ありがと!」
「すっかり元気になったな」
 亜由美は笑みを浮かべている。可愛い奴だと思った。頼ってくる奴は可愛い。特に女は。思ったが入院費も俺が払ってやらないと駄目なのか? こいつ、金ないだろう。働かさないと駄目だ、亜由美は。俺にばかり負担がくる。でも、こいつは何が出来るのだろう。無能な奴だから何をやらしても続かない気がする。でも、退院したら話してみるか。このままじゃいけない。

 翌日の午後、俺は亜由美が入院している病院に向かった。午前中、女から連絡がきて、退院するからと言われたので迎えに来た。正直、面倒。自分で荷物まとめて歩いて帰って来いと思う。でも、それは言っていない。可哀想だと思うから。こんな俺でもそう思うことがある。

 病室に行ってみると既に女は帰る準備が終わっていた。帰るとなったら早い。亜由美らしいと思った。
 俺の亜由美は性欲のはけ口の対象だったけれど、最近では可愛いと思えるようになってきた。榊原龍太郎に俺の女を寝取られたことも徐々にではあるが、気にならなくなってきた。今度まだ3人で飲みに行きたいとまで思うようになった。何だかんだ言っても仲間だから。亜由美は彼女だけど、仲間でもある。水野や万谷理沙よろずやりさだって先輩と後輩だが、仲間だ。時には喧嘩をする時もあるけれど、それで離れていく奴はそこまでの仲だったということだ。何も難しく考えることはない。

 たまにこんな俺でも考えることがある。それは「仲間」とはなにか? でも、答えが出ない。周りにも訊いてみよう。まずは、居候の亜由美から。答えは、味方、と言っていた。確かにそれは一理あるかもしれない。あとは、龍太郎、水野、理沙にもSNSを駆使して訊いてみた。
 結果は龍太郎は既読にならず、水野は、友達ときた。理沙は、わかんないという返答。様々な答えがあって感心する。こいつら普段はやんちゃな態度だけれど、人間関係を大切にしているように感じた。大切なことだ。言葉遣いも悪いし喧嘩を売る時もあるけれど、みんないい奴だと俺は思う。こんな話は笑われそうで言えない。言いたいけれど。

 悪さをしてきた中で1番の悪は多分、俺だと思う。中学生の頃、トイレで煙草は吸うし気に食わない教師は殴ったりもした。それから自転車で校内を走ったり、教室の窓ガラスを次々に椅子で割ったりもした。さすがに警察問題にされて親も呼ばれた。自宅ではこっぴどく叱られた。母親からはビンタをされ、父親からは罵声を浴びせられた。俺はそれに懲りることもなく悪さを続けた。挙句の果てには、ナイフで人を刺したりもした。腕や足を。そこまでして警察に逮捕された。だから俺は前科者だ。それは高校生の頃の話しだ。このことは亜由美には言っていない、というか親と弟しか知らないはずだ。親や弟が誰にも言っていなければだが。自分の子どもや兄弟の恥をばらすとは思えないけれど。弟は普段から虐めているから腹いせにばらしているかもしれない、友達とかに。
 弟は吉田隼人よしだはやと、18歳。高校3年生。大学進学を目指しているらしい。隼人は大学に行ってどんな勉強をしたいのだろう、訊いたことがない。まあ、俺みたいなろくでもない人間ではない。隼人は吉田家のエースだ。頑張ってもらわなければ。
 俺は誰からも期待されてないと思うし、将来だって決して明るいとは考えにくい。俺は強気でポジティブという人もいるけれど、そういうネガティブなところもある。

 今日は日曜日、俺は昨夜、亜由美を抱いたあと2人でゆっくり眠りについた。数日ぶりに亜由美を抱いた。女が俺と居候したての頃は毎日抱いてやった。お互い感じ合い、幸せだった。今では女とは毎日ではなくなったけれど週に3~4日に1回、抱いてやる。絶倫の俺と、淫乱の亜由美。似た者同士で良かった。
 それにしても、亜由美はてんかんの薬をちゃんと飲んでいるのだろうか。発作を起こしたら大変だから。なるべく苦しい目にあって欲しくない。これは彼氏としての思いだ。

 ある時、亜由美が叫ぶように言った。
「生理がこない!」
 と。俺は、
「でも、遅れる時もあるんだろ?」
 訊くと、
「そうだけど、5日も予定日から過ぎてるよ」
 言った。
「妊娠検査薬で検査してみたらどうだ?」
 俺が訊くと、
「そうね、買ってくるからお金ちょうだい」
「仕方ないな、お前、仕事しろよ」
「嫌だ! 疲れるもん」
「何を言ってるんだ! 働くとはそういうことだ」
 亜由美の眼付が変わった。
「そんなに働かないと駄目ならあたし出ていく!」
「どこに行くってんだ?」
「そんなの太一に関係ないじゃない」
 俺は、
「お前、そんな生意気なこと言ってるけど、一人暮らし、出来ると思っているのか? お前みたいな金にも男にもだらしない人間が出来るとは思えない。それに無職だし」
 女は顔面が紅潮して今にも破裂しそうだ。
「そこまで言うことないじゃない!」
 亜由美はとうとう泣き出してしまった。ちょっと言い過ぎたか、でも事実だ。ある程度言わないとこいつはわからないままだから。亜由美はスマホだけを持って俺の家を飛び出した。

 

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