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【連載小説】一途な気持ち 13話 覚悟

#一途な気持ち #覚悟

 病院の入り口には、じいちゃん、ばあちゃんを先に行かせ、そのあとに母親が歩き、次に弟の誠二が続き、最後に俺がみんなを見渡すように歩いた。

「じいちゃん、エレベーターの上向きになっている三角のボタンを押してくれ、わかるか?」
 じいちゃんは鼻で笑ってこう言った。
「ふん! わしだってそれくらいのことはわかる! 馬鹿にするな」
 俺は苦笑いを浮かべ、こう言った。
「そうか。それは失礼しました」

 じいちゃん、ばあちゃん、母親、誠二、俺の5人が乗り3階のボタンを母親が押した。スーッという滑らかな音と共にエレベーターは動き出した。2分も経たない内にエレベーターは止まり、扉は開いた。
 弟の誠二は初めて来たので、物珍しそうに辺りを見渡している。誠二は、
「綺麗な病院だな、初めて来たけど」
 と言った。母親は話しだした。
「最近、改装したのよ。見る限りでは外観ではなく、院内だけっぽいけどね」
 誠二は興味がないのか、
「ふーん」
 と、笑みすら浮かべなかった。誠二は続けてしゃべった。
「親父は3階なんだな。部屋にいる患者はみんな点滴や機械につながれてるな」
 俺はよく気付いたな、と思った。再び母親は話した。
「3階は、症状の重い患者さんが入院してるらしいの」
 弟な納得したようで、
「なるほど、そういうことか。てことは、親父も重いのか」
 と、表情を暗くして言った。俺も会話に参加した。
「まあ、そういうことだ」
 
 弟の顔を見てみると、不安気な表情をしている。俺は声をかけた。
「誠二、どうした? 不安気な表情をして」
 誠二はしゃべりだした。
「親父、大丈夫なんだろ?」
 俺は、首を左右に振った。弟はぎょっとした顔で俺の顔を見ている。
「マジか? 余命宣告されてるのか?」
 誠二は男だけど鋭い。俺は感心して言った。
「よくわかったな」
 弟は苦笑いを浮かべながら言った。
「そりゃ、察しはつくだろ。こういう病棟だし」
 俺は、またもや感心したので鼻を鳴らしながら言った。
「ふふん、なるほどな」

 じいちゃんとばあちゃんは、先にスタスタと親父の病室に入って行った。
 誠二は言った。
「じいちゃん、ばあちゃん、慣れてるな。もしかして毎日見舞いに来てるのか?」
 俺は弟に感服したので言った。
「お前は本当に勘が鋭いな」
 そう言うと誠二は、
「そうか? 普通だろ」
 と、言ったが俺は反論した。
「いや、俺だったらそんな鋭いこと言えないわ」
 弟は声を出して笑った。
「それは兄貴が鈍いだけだろう」
 図星だったので何も言えなかった。

 俺と誠二は最後に親父の病室に入った。親父、大丈夫だろうか。心配だ。でも余命宣告されているので、覚悟をしなければならない。誠二にもこの話をじいちゃんとばあちゃんがいないところでしなければ。でも、よく考えてみると、じいちゃんもばあちゃんも覚悟しないといけない。と、いうことは2人にも伝えなければならない。そういう考えに至った。

                                                                                                    つづく……





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