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様々な性 24話 フラストレーション

 俺は、有馬亮。23歳。好きな人がいるという話しは友達に話した。その好きな人というのは山宮剛輝、26歳。俺はゲイだけれども、山宮さんはノーマル。彼は、偏見はないようだが、俺のことは興味ないだろう。残念だが仕方がない。でも、山宮さんと話したくなってLINEを送った。今は20時過ぎ。
<山宮さん。お話ししない?>
 彼の声を聞きたいということは書かなかった。お風呂にでも入っているのか21時になっても返信がこない。なぜ。でも、話すと言っても、話すことが思い付かない。どうしよう。優しい山宮さんのことだから、きっと気を遣って無理矢理にでも話題を考えるだろう。22時になっても返信がない。一体、彼は何をしいているのだろうか。それから、更に約1時間後ーー。LINEがきた。山宮さんだろうか。俺は仕事の疲れもあり、徐々に眠くなってきた。
<遅くなってごめんね。友達と会ってた>
 そうだったんだ。でも、俺のLINEを忘れないでいてくれて嬉しい。それに、山宮さんのLINEを見ることができて、一気に目が覚めた。山宮さん効果か。
<亮君、話ってなに?>
 次のLINEがきた。<なに?>と訊かれても具体的に話すことは決めていない。世間話程度かな。まさか、俺の気持ちをカミングアウトするわけにいかないし。フラれるのが目に見えているから。それにしても、いつまで俺は黙っていなければいけないのだろう。段々、我慢しているのも限度がある。でも、フラれるのは怖い。このままフラストレーションが積もるばかりだ。山宮さんを想いながら自分を慰めることしか今はできない。機会はどこかであるはずだ。今は我慢我慢……。山宮さん以外にも友達を作ろうかな。男女問わず。でも、どうやって友達をみつけよう。山宮さんに紹介してもらおうかな。でもなぁ、同級生の友達と連絡取ってみようかな。
<いや、やっぱり何でもないです。すみません。また今度連絡します>
 そう打ち込んで送信した。
 

 下谷猛(しもやたける)という高校時代の同級生がいる。こいつとは割と仲がいいほうだ。今は23時を少し回ったところ。早速、メールを送った。下谷とはLINEを交換していない。電話番号は知らなくてメールアドレスは知っている。
<おひさ! 何してた?>
 30分くらいしてから返信メールがきた。
<おー! 亮! 久しぶりじゃないか。お前なら全然連絡してこないもんなー>
 俺は思った。下谷だって連絡してこないじゃないかと。言ってはいないけれど。こいつのことだから言ったら怒るだろう。結構短気だから。
<今、通話できるの?>
 俺が訊くと、
<ああ。できるけど、電話番号知らないから送ってくれよ>
<わかった>
 言って、メールに電話番号を載せて送った。仲がいい割には電話番号を知らないという。まあ、今までずっとメールでやり取りしていたから特に気にしてなかったけれど。何と、相手は何と山宮さんからだ。俺は凄く嬉しくなった。
『もしもし、山宮だけど』
「山宮さん! 俺に電話をくれるなんて珍しい」
『いや、さっき、話そうって言ってたのに急にやめたから何かあったのかと思ってさ。』
 またもや嬉しいことを言ってくれる。気にしてくれていたんだ。
「いや、何もないよ。ただ、山宮さん忙しいだろうなぁと思ってやめたの」
『そうかそうか。大丈夫だぞ、僕は』
 俺は焦った。下谷から電話がかかってくるはずだから。
「すみません。もう少ししたら友達から電話がかかってくると思うんですよ」
『そうか』
「ごめんなさい、またかけますね」
 言ってから電話を切った。
 こんな自分勝手なことをして嫌われないだろうか。心配だ。でも、やってしまった後だからどうすることもできない。
 少ししてからまた電話がかかってきた。次は下谷だろう。登録されていない番号だから。電話に出てみると、
『うぃーっす! 亮か?』
 低音の響きだ。たまに下谷はこういうふうにおどけて見せる。
「そうだよ。番号登録するから待っててくれ」
『オレも登録するわ』
 登録後、
『ところで、何か話したいことがあったのか?』
 と、下谷。
「うーん、特別これといった話題があるわけじゃないけど、知り合いの声が聴きたくなったのさ」
 そう言うと、彼は笑い出した。
『何だ、寂しいのか! 寂しがりやの亮ちゃんだな』
「馬鹿にするな!」
 俺は腹が立って怒鳴った。
『そんなに怒るなって。らしくないなぁ』
 確かに普段の俺なら怒っていなかっただろう。かなりフラストレーションが溜まっている証拠だと思う。でも、冷静になってまずかったと思ったので、
「ごめん」
 謝った。
『いや、いいけどさ。自分らしくいこうぜ』
 俺は思った。下谷に俺がゲイで好きな男がいるということを打ち明けるかどうかを。また、馬鹿にされるだろうか。確認してから言うことにしよう。もし、話して差別や偏見があるなら話さないでおこう。
「下谷?」
『何だ?』
「訊きたいことがあるんだけどいいか?」
『金ならないぞ』
「違う! お金の話しじゃない。下谷はゲイとかレズとかどう思う?」
 すると、会話が途切れた。やはり、偏見があるのか。
『うーん、もしオレがゲイから告白されても受け入れることはできない。でも、持って生まれた性だから例えゲイでも仕方がないと思う。無しには出来ないだろ』
 下谷の言う通りだ。核心をついている。こいつになら山宮剛輝という男性が好きだということを相談しても馬鹿にされなさそうだ。言うか。
『何でそんなこと訊くんだよ』
「実はね、俺、ゲイなんだ。で、好きな男性もいる。好きで好きでフラストレーションの塊。さっき俺が怒ったのもそのせいだわ」
『マジか?』
「マジだよ。それで、カミングアウトしようか迷ってる」
 うーん、と下谷は唸った。そして、
『カミングアウトしてフラれても平常心でいられそうか? 仕事を休むほどのショック受けそうか?』
 俺は質問されて考えた。
「正直わからない……。あまりに好き過ぎて……」
『そうか、それなら言わないで気持ちの高ぶりが落ち着くのを待ったらどうだ?』
 なるほどな、と思った。
「そうか。気持ちが落ち着くのがすぐにはできないけれど、話せてよかった。ありがとう」
『いや、いいんだ。それぐらいのことしか言えないけれど』
 俺は下谷がこんなにいいやつだとは思わなかった。彼のイメージはおちゃらけているというものだから。意外な一面を垣間見た。また今度電話しよう。

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