目に見えないなにか

 私は思う。本当に「生き霊」というのは存在するのだろうか。

 人間が亡くなったあとに霊として現れるのもいささか疑問に思うというのに。

 仮に生き霊がいたとする。その生き霊と生きてる本人が出くわしたらどうなるのだろう? 謎。

 芸能人も霊について語る人はいる。

 殺された霊、自殺した霊、病気や寿命で亡くなった霊。それぞれ違うのではないか。

 誰の前でどこで現れるのか。

 殺された霊は、殺した人間の前に出て苦しめるのかもしれない。

 自殺した霊は、自殺した場所に出るのかな。

 病気や寿命で亡くなった霊は自宅に現れるのか。

 すべては憶測でしかない。



 霊に興味を抱いたのは高校3年のころ。「金縛り」というのを体験したとき、私は大学進学のため朝まで勉強していた。すっと、気をぬいたときなにか予感めいたものを感じた。するとそのとき、からだが動かなくなった。ガチガチに。足元には黒いなにかがいた。

私は恐くてこわくてただ、黙っているだけだった。

 約1分ほど経過して、からだの固まりは緩んだ。

 初体験だったが、これが金縛りなのか、と思った。でも、なぜ? これは霊の仕業? ネットで調べてみた。すると、原因は精神的な疲れが原因、と書いてあった。そうなんだ、なるほど、と思った。

 それを境に私は目に見えない誰とも知れない声が聞こえるようになった。いったい誰の声だろう? 憑依されてしまったのか。わからない。聞こえる内容は、

 ころすぞ

 しね

 など、おぞましいものばかりだった。恐ろしくなった私は怖じ気づいてしまって、今まで誰にも言わずにいたのを言わざるを得なくなってしまった。

 友達に言うのは気持ち悪がられるような気がしたので、妹に話すことにした。両親に話すことも考えたが、それは最終手段にしようと思った。心配をかけたくないので。

「沙織、ちょっと今いい?」
「うん? なあに、お姉ちゃん」
 妹の沙織は、甘ったるい声で返事をした。
「私の話を聞いてほしいんだけど、最近ね、誰だかわからない声が聞こえてくるの。なんでだろう?」
 不思議そうな表情で私を見ながら首を傾げている。
「わかんない?」
「わからない、ごめんなさい」
「そっか」
 まあ、仕方がない。彼女はまだ子どもだから。私は20歳。沙織は13歳。訊く相手を間違えたかもしれない。彼女には悪いけれど。

 やっぱり、親に言わないとだめなのかな……。私は不安と躊躇いに襲われた。

 意を決して私は母に言うことにした。
父には母から伝えてもらおう。私は今日休み。母は専業主婦なので家にいると思う。私は一人暮らしなので実家にはいない。だから、電話をすることにした。数回の呼び出し音で繋がった。
「もしもし、お母さん?」
『うん、どうしたの?』
「あのね、ちょっと話したいことがあって」
『なに?』
「私ね、最近変な声が聞こえてくるの」
『えっ! どんな?』
「驚かないでね、しねとか、ころすぞとかね……」
 母は絶句してるようだ、返事がない。
「何で聞こえるんだろ?」
『もしかして、あんた……病気なんじゃ?」
「え? 病気……?」
『うん……。何ていう病気かはわからないけれどね。具合悪くない?』
「あんまりいいとは言えないかな」
『でしょ。心の病かもしれないよ』
「えっ! そうなの?」
『わからないけどね』
『精神科にかかってみたらは?』
「精神科……なんか怖いね」
『そんなことはないよ。最近の精神科は』
「なんか、暗いところに鍵かけられて……ていうイメージ」
『今はそんなことないよ。明るいよ』
「そうなんだ、じゃあ行ってみようかな。少し、調子悪いし」
『それなら行った方がいいよ』


 こうして私は精神科にかかることにした。明るいならいいかなぁと思って。確かこの町に精神科専門の病院があったはず。何で私が……。
 でも、仕方ない、治すしかない。そう思い、ネットでこの町の精神科を検索してみたら出て来た。電話をしてみると予約制だという。なので明日、診察することにした。重病でなければいいが。

                              (終)


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