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シャトーすがも

シャトーすがもが解体される。

大好きなラブホテルだった。

どの部屋も昭和の空気があふれていて、平成生まれのわたしでも、目の奥がくすぐられるようななつかしい感じがあった。

特に回転ベッドがある部屋は良かった。このホテルの目玉だった。赤くてベルベットな風合いの丸いベッドの周りは鏡張りになっていて、天井にはさまざまな色の明かりがギラギラしていた。回転ベッドは法律上の制限で回せなくなっていたが、きゅっと揺らすと少しだけ動いた。このホテルではよく写真を撮ったけれ
ど、このノートにつけた写真くらいしか残っていなかった。

他の部屋も良かった。天井にたくさんの電飾がついていて、きらきらひかる人工の星空みたいな部屋もあった。そこはお風呂が広くてジャグジーがついていて、テレビを見ながらぶくぶくやった。和室みたいな部屋もあったと思う。

どの部屋もコンセントが少なかった。冷蔵庫はショボかった。そこも大好きだった。

いろんな人と行った場所だ。大好きだった人と別れたあとに行った。その時はハロプロの特番を見たりした。絶対にゴムをつける人だった。


好きだけど絶対に付き合えない人とも行った。鬼ころしとかワンカップ大関を飲んだりした。狭くてくすんだソファーで。たのしかった。

朝、チェックアウトしたら、近くの喫茶店のモーニングを食べに行った。そこは13時までモーニングをやっているので遅い時間にふらふら出てきてもちゃんとしっかりした朝ごはんが食べられる。トーストを食べながら煙草を吸うとおいしいという技を教えてもらったのもこの喫茶店だったと思う。

今、そこの喫茶店でこのノートを書いている。さっき、シャトーに別れを告げてきた。きらきら煌めいていた看板はもう光らないと思うと、置いていかれたみたいでさみしい。入り口には工事の柵が立っていた。

15:30なのに日が傾いて、駅から歩いているとシャトーに後光が射していた。さよなら。わたしの春。とってもとってもたのしかった。さよなら。

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