恋が解体されるとき

恋が解体されるときは、ただ解体される。

建物が壊されて、ずっと日が当たらなかった床や壁が光にさらされるとき、寂しいような感慨深いような、不思議な気持ちになるように、恋も解体されたとき、あらぬ場所に光があたるような、はっとして、じんわりとした感じがする。

恋は秘密でできているのだとおもう。

二人でいった場所、あなたと私以外だれにもわかってほしくなかったやりとりや感情が、ふとした瞬間に人の前に開かれて、光を当てられる。
それは、あの場所はよかった、とか、こんなことをした、とかそんな些細なことだけれど、私は誰にもわかってほしいわけではなかった。秘密であるかぎりそれは恋だったから。

夕暮れに通った細い道も、柄の悪すぎる街も、ふざけた会話も、狭くて煙い店も、わたしにとっては秘密だった。

でも、それが開かれたとき、繋いだ手がふっと離れて、その間に空気が入り込んでいくとき、寂しいけれど、ただ悪いという感じはしない。
電車の窓から見えた川が、遠く地平へ離れていくような、脱力と放心と、すこしの安心がある。

光の先へ消えていけ。

愛が解体されることについては、まだ知らない。

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