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主人公

同年代のアイドルを好きになると、自分が何者でもないことを思い知ってしまい、自信を喪失してしまい心が弱ってしまうアレを、また感じてしまっている。

これまでいろんな努力を重ねて、大変な思いもして、いろんな名場面を乗り越えた先に、華々しい今がある。
それを体現しているアイドルを見ると、頑張らなきゃと思うし、頑張りたいと思う。

でも、あまりにも「諦めること、受け入れること」が当たり前になっている自分が、そんなにすぐに変われるわけなんてない。

アイドルを応援していると、たまにハラハラするときもあるけど、とても楽しいんだ。
見たことない輝きを浴びて、面白いことをどんどん作り上げていく。仲間とともに切磋琢磨している姿をみて、眩しい青春を感じる。音楽を聞き日常が彩られ、パフォーマンスを見て胸が躍る。

彼らが主人公のストーリーを見ているだけで、満足できてしまう。

難しいことを考える必要なんてなくて、頑張っている彼らの応援をしていれば、出演作品や雑誌を追っていれば、あっという間に時間なんて過ぎていく。辛いことに向き合うことなく、とにかく乗り切ればいいの精神で生きていくことができる。

それってすごく、楽なんだよな。

あの人たちは自分と生きている世界が違うと言い切ってしまえば、彼らへの憧れは箱に入れて綺麗に仕舞う事ができる。あんな事自分にはできない、あの人達はすごい人なんだ。あんなふうに生きれる人なんていない。あの人達は別格だ、別世界の住人なんだ。物語の中にいる人達なんだ。

アイドルたちが地続きに存在していることを受け入れなければ、世界中の人はみんな脇役。モブでしかない。特別な能力がある人たちを「一般人」の枠から追いやることで、一般人は惰性で生きていくことができるようになる。適度に頑張って、適度に苦労して。劇的なことなんて起こらないし、人間関係なんて少しあればいいし、毎日同じことの繰り返しで充分。

でも、アイドルたちの眩しさの奥にある泥臭さを感じて、私達と同じ町で、同じ世界で生活していることを実感すると。私とは違う、「物語の主人公」である人たちが存在していることが垣間見えると。

主人公じゃない自分がとても惨めに思える。

圧倒的な「物語の主人公」たちを前にすると、自分がどれほど、「自分の物語」を生きていないのかがよく分かる。

私の物語の主人公は、私じゃない。私はアイドルを応援しているファンで、彼らの物語を盛り上げる脇役でしかない。サブキャラでもない。モブでしかない。その他大勢なのだ。

じゃあ、私の物語はどこにある?

私しか紡げない物語はどこにある?



小さい頃、どうして物語の主人公は決まってその世界の中心にいて、みんなに囲まれていて、強い何かを持っているのか、不思議だった。
世の中、みんながみんな強いわけじゃない。目を惹くなにかを持っているわけじゃない。普通の人だってたくさんいるだろう。平凡で、過去に辛いことがあるわけじゃない、未来に大きな不安があるわけじゃない、成し遂げたいことがあるわけじゃない。どうしても生きていたいと思うようななにかがあるわけじゃない。主人公じゃない、普通の人だってたくさんいるのに。なのに、どうして主人公というやつは決まって「主人公」らしくいるんだろう。
普通な人にもスポットを当てたらいいのに、と思っていた。

けれども、それは、「主人公」の物語じゃないと、みんなが見たがらないからで。
モブの物語なんて、きっとなんの起伏もない、普通の日常の繰り返しでしかない。普通のレールに乗っかった、逸れることもない、至って普通の物語。それを見て誰が喜ぶ?何が面白い?帯をつけるならどんな文言があり得る?それを、誰が手に取る?

普通であるモブは、自分の物語を紡げない。
その物語で誰かを喜ばせることなんてできない。



私は、主人公になりたかった。
人から羨ましがられるような、自分の物語を綴りたかった。

だから、主人公であるアイドルを見ると、憧れを抱くし、羨ましいと感じてしまう。
けれども、アイドルの輝きにのまれて、応援することで充実感を覚えてしまう。モブでいることを受け入れてしまい、彼らの物語を彩る一部になれていることに満足してしまう。

そろそろ自分の物語をはじめたい。

そう思うのに、ずっと担っていたファンというエキストラの役割は、やりがいがあるし楽しいし気楽で、どうしてもその役を降りることができない。
応援したいと強く思う。売上に貢献したいし、再生回数に貢献したいし、トレンドで盛り上げたいと思ってしまう。

モブのままでいたい自分を自覚するたびに、苦しくなってしまう。



私はきっと、変わりたいし、輝きたいと思っていて、でもまだそこに踏み出すことができていない。

それをアイドルのせいにするなんて、アイドルに対する冒涜でしかない。


変わるために行動を起こすって簡単に言われても、それができるなら最初から主人公になれていただろう。できないから、今の自分がある。


あー、でもやっぱり、もう少し頑張りたいな。

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