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病室にて

入院している。
同室はわたしを含めて3人。
小さな白い空間をカーテンで四つに区切り、それぞれがそこで生活をする。
トイレも洗面台も同じ部屋にあるけれど、うまいこと鉢合わせをしないようにそれぞれが順繰りと利用する。
わたしに感じられるのは、2人の息づかいだけだ。
カーテンを開けたり、本のページをめくったり、歯磨きをする生活のオト。
わたしが入院した日、同室の2人は手術当日だった。
カーテン越しに看護士さんのバタバタとした慌ただしい足音や、ストレッチャーで手術室から戻ってくる患者さんの小さな声が数時間おきに聞こえてきた。
みな一様に苦しそうだ。
気持ち悪いとか痛いとか言ってるし、そのまま喘いだような寝息をたてて何時間も眠ってしまったり。
看護士さんたちがひっきりなしに部屋にきては、血圧に体温測定など、体の様子をみにやってくる。
夜中も同様に、夜通し看護士さんがやってきては世話を焼いてくれる。

手術日が翌日だったわたしは、イヤホンでテレビを見ていたのだけれど、お笑い番組がおもしろすぎて、笑わないようにしようと努めれば努めるほど、歯と歯の間からおもしろいように空気がすり抜けて、小さな笑い声になってしまった。
手術前日なのにわたしは思ったよりも図太いのかもしれないと思った。

手術が終わった夜は一睡もできなかった。
腹痛と体の違和感、身動きのとれない状態で、体をいろんな角度に動かして楽な姿勢を探そうと試みたりした。
わたしはわたしだけの苦しみをゆっくりと味わった。
気休めに被せた片耳のイヤホンごしに聞こえてくる大好きな星野源の歌も、なんだか気の抜けたサイダーみたいで味気がなかった。
病室のみんなが同じように山を登り、頂上に達し、そして下山する。
空気は濃くなったり薄くなったり。
スーハー スーハー スーハー

今は病室の外を想像しながら、ゆっくりと下山している途中の途中だ。

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