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ゲースロその2 デナーリス・ターガリエンさんと、そのご一統様の歪さの話

 ゲームオブスローンズは長期の海外ドラマとしては成功していると思う。収益だけの問題ではなく、破綻がそれほどない。長期はだいたい破綻する。短期は破綻はしないがだいたい普通に面白くない。
 そして奴らは非情なのでシーズン2とかが終わった後で続きは造りませんとか平気で言う。現場制作陣の虚しき壁打ちが響き渡る。

 破綻、というとちょっと違うのだが、最早全然当初の意図と違うよね? とか続編造るのそもそも無理だよね? とかそういうのもある。だがまあそういうのはヒットした証拠でもあるからして何とか続きをヒネり出さなくてはならない。そういう時に役立つのがキャラクターである。
 盛大に横道に逸れた挙げ句そのまま横道を突き進むとか、この日常パートみたいな話なんなのとか、突然始めた新展開をすぐ終わらせるのやめろとかなんとか、そういうの全部キャラの掘り下げで視聴者は満足してしまうところがある。人気キャラならなおのことである。
 極端な話、人気キャラが一話まるまる使ってビーフシチューを作ってたりしても納得する。いやそれは言い過ぎかもしれんが。

 海外ドラマが認知され人気を博したきっかけは、俺が知る限りでは「24」である。もっと前にもちゃんとあったが(それこそナイトライダーとか冒険野郎Aチームとか)空白期間はそこそこ長かったし、正確に言うなら復権した、という言い方になるのだろうか。
 「24」は長期化しがちな昨今と比べても長期シリーズで、設定的にも長く続けやすい設定だとは思うが、何せコンセプトがそもそも24時間の出来事だから「24」なので、そら何度もやったらめちゃくちゃになる部分は多い。
 設定が破綻しているというより、視聴者をビックリさせて(大概誰かが唐突に死ぬ)次のシーズンに繋ぐ、というやり方が多く、昔はシーズンごとにきちんとオチをつけて一応の纏まりはつけていた筈だが(多分)予算の規模と収益の額がデカくなりすぎたのか、続けることが前提となっており脚本上の纏まりはあんま気にしてねえのかな? と思わされることが多い。そしてどんなに前提にしても続きが造られるかは分からない。造る方は相当ドライになっていると思う。ゼニの闊歩する世の中だ。
 前置きが長くなってきた。
 俺が言いたいことは「プリズンブレイク」で最後全身のタトゥー跡形もなく消されたり「24」のおもしろEMP爆弾で電子機器のみならずCTUそのものが爆破されたり「ウォーキングデッド」で真相を知っているテイで引っ張られたユージーンが実は何にも知らなかったりしたことではない。
 ゲームオブスローンズの話である。

 ゲームオブスローンズは言うまでもなくキャラが無数に出てくる。三国志とか戦国時代とかに比べればまだ纏まっているが、それでも多い。多い上に大きな家(氏族)の下に旗士という従属寄りの同盟関係で(「忠誠」という言葉で繋がっているので従属値10点中9.5くらいだと思うが異議を唱えたりは出来る)多数の「家」が出てくるため何の予備知識もなく初見で見るとまず把握出来ない。かなり見ているという自負のある俺だって、しらねーよオメーどこの家よ? こっちはタイレルさん知ってんだぞ? と思うことは多々ある。
 ちなみに作中でも似たような会話はたくさんある。
 言うまでもなくヤンキー文化には「どこそこの家中のもの」という文化が生きている。ドコ中の出で何サンの後輩とかそういうの。
 それら全てを統べる存在が七王国の守護者であり鉄の玉座に座る国王ということになる。総番長である。

 その辺は前回も書いた「歴史ドラマ(風)としてのリアリティで異世界ファンタジーに背骨を着ける」という意図もあろうかと思う。
 ただまあ、その辺に着目するのは一部だと思う。
 脚本や設定に拘るよりキャラをきっちり描く方が比較的簡単にマスが取れる。問題は出てきただけで結果、あぶれるキャラと、そのキャラに付随するストーリーが横道に逸れたように見えてしまうことだ。前述した通りドラマである程度数字を保つにはキャラ方面に焦点を当てなきゃならず、その結果、取捨選択が発生するので、企画脚本上は生きていたキャラも死んだりしているかも知れない。人気投票は非情である。

 例えば「次子」(セカンドサンズ)という傭兵団がいる。基本、騎馬隊だと思うんだが、デナーリスはその前にドスラク人というスーパー騎馬民族を味方にしてる経緯がある。
 シーズン1の中で進軍中に王が死んだので、特に何もせず解散してしまうのだが(歴史っぽい)モンゴルとアラブを合体させて野蛮人にしたような恐ろしい奴らだ。
 ちょっと被ってるというか大幅に被っている。
 デナーリスはかなり強引なやり方でバカスカ軍隊を揃えていくのだが、アンサリード歩兵隊とセカンドサンズ騎馬隊でほぼ野戦においては無敵に近い。あっさりと。
 この辺はご都合主義だとか安易だとかは俺は思わない。デナーリスが着目したのは奴隷の解放であって、奴隷を解放しようなんて考えたヤツはあの世界にはいない。早い者勝ちである。
 それにしたってセカンドサンズのリーダー三人のうち、一人がデナーリスに一目惚れして残り二人の首をぶら下げて降伏して味方になるのはいかがなものかと思う。ドスラク人の穴を埋めるために出てきたような奴らだ。
 ついでに言うと、数少ない、デナーリスについてきたドスラク人は馬に乗らずに徒歩でデナーリスを守っているのだが、馬、あげたら? という気持ちになる。あげなさいよ、馬ちゃん。
 セカンドサンズのダーリオ・ナハーリスも投げナイフは使うが、メインウェポンがドスラク人と同じショーテルみたいに曲がった剣なのでますます穴埋め感が酷い。
 あと俳優が変わる。突然出てきて被ってる上に俳優が変わる。
 まあ俳優が変わるのは仕方ない。セカンドサンズの活躍が(少なくとも騎馬隊というスケールでは)ほぼその後もないのが問題で、デナーリスのやることは奴隷貿易湾の街に武力を背景にして乗り込んでは奴隷を解放して軍を整えることだし、愛人としてデナーリスの傍にいたくせに、デナーリスが殺されかけた時に素早く助けたのはジョラー・モーモントだった。ダーリオ何なのお前。
 挙げ句の果てには大ピンチの市街戦をひっくり返すのは、もう一回、デナーリスが率いてきたドスラク人の無敵騎馬隊なので本当にセカンドサンズはなんなんだという気持ちがある。人気投票云々以前に、脚本上「繋ぎ」で採用されたとしか思えないので可哀相である。

 だいたい、ドスラク人もアンサリード歩兵も描き方に力が入りすぎている。ビジュアルからして強い上に設定も凝ってるし練度が高い上に数が多い(アンサリードはデナーリスが契約時で8000人、予備役含まず)から、軍隊としては存在だけで余所を圧倒している。だからただの傭兵部隊であるセカンドサンズなんか物語上は割とどうでもいい。
 実際どうでもよくなったのか、デナーリスがウェスタロス侵攻後は後詰めに回されて出てこない。後詰めなんか誰でもいいだろ。単にダーリオがデナーリスの愛人だったから体裁悪いので置いていきますって話になって本当に置いていかれた。話の上でも。セカンドサンズごと。
 公私混同はデナーリスの悪い癖です。

 デナーリス軍だけあからさまに強いの、完全にホワイトウォーカー戦を睨んでのセッティングだと思うんですが、それ以外だとバランス悪い。実際に最終章のホワイトウォーカー戦ではドスラク人があっちゅうまに殲滅されるし(メリサンドル、突然現れてまたクソの役にも立ってなさそうな魔術使ってた。お前ただのライターやんけ)ドラゴンからの爆撃を防ぐために視界を防ぐ吹雪が使われたりしていい感じでバランスが良い。が他だと強すぎて話にならない。その気になったら(よくその気になってたが)ドラゴン繰り出して片っ端から城を爆撃してたらそれだけで圧勝出来る。
 
 その辺は民草を巻き込むな的な話でいつもとめられるのだが、そもそもデナーリスはゲリラみたいな生き方で野生の軍勢をポケモンボールに集めてきたような女なので常識がところどころ通用しなくなる。
 七王国きっての名家であるターガリエン家にそれをやられると困る。むちゃくちゃをするなというのではなく、ドラゴン持ってる家にやられると一方的な殺戮にしか繋がらないからおもんない。
 ようするに戦争シーンが単調になりがち。
 同じめちゃくちゃでもラムジーはちゃんと色々工夫してたぞ。ドラゴンいたら遠慮なく繰り出すタイプだが、ラムジー。残念ながらボルトン家にドラゴンはいない。そして残念ながらターガリエン家にはいる。三頭も。
 一頭は殺されて「夜の王」側になるんだが、それで漸く緊張感のバランスが整ったところがある。

 デナーリス軍の歪な強さはファンタジー要素との掛け合わせが余り巧くいっていない部分が出てるとこがある。脚本上、緊張感を保てているのは同じファンタジー要素のホワイトウォーカー戦だけで、他だとなんやかや理由つけられて巧く運用させてくれないか、唐突に死ぬとかする。
 クロスボウの開発には異常に血道を注ぐことで有名なラニスター家渾身のウルトラ巨大ボウガン・スコーピオン、通称「モンハンで見たやつ」の不意打ちで一頭死ぬ。油断してフワフワ飛んでるからだ。
 だが残り一頭でスコーピオン全部壊す。
 ドラゴンまで人員整理するのやめて欲しい。
 もうちょっとこう、戦略戦術に組み込んでいただけないものか。
 これじゃデナーリスがバカみたいじゃないか。バカだが。

 基本的にデナーリスのところにいるキャラは「既にステータス出来てて参入する」が多い。多い上に処理しきれないので肩書きと看板の割にはあっさりいなくなる人も多い。ダーリオなんかまだ愛人してたからマシで、七王国有数の剣士と触れ込まれたバリスタンなんか名もなきハーピー野郎にやられて路地裏で死ぬ。あれ殺さなくても良かったんじゃないの? その方が名剣士感出たんじゃないの? グレイワームが感謝したりとかなんとか繋げられたんじゃないの? など色々思うがバリスタンは特に使い道がないと見做されたのかそうなりました。現実は非情である。

 逆にただのスパイだったジョラー・モーモントなんかは少しずつ出世していった気はする。キャラは物語のうねりに上手に乗せて成長させていかないと消化するのに持て余す。
 デナーリス回りはキャラも設定もそういう「持て余したから切りました」みたいなのが多い印象が多くてムズムズする。リアルとファンタジーの融合で折り合いが付かなかったみたいなとこもある。ゲームオブスローンズ全体的にそういうとこありますけど。
 
 デナーリス自体も「車輪を壊す」と称して民の解放を掲げているし、サーセイが言ったとおり統治者ではなく革命家だと思うんだが(分かりやすく言うと野望の王国の橘征二郎と橘征五郎の違いだ、分かりやすいだろう)その割には従来の家父長制や長子相続を意識しているというかかなり利己的に考えている部分は多くて、その辺の矛盾はデナーリスというキャラの複雑さにも一役買っているから、それは良いのだが。
 人間ってそういうとこあるよね。
 
 最終的にデナーリスがジョンに殺されて、怒り狂ったドラゴンがやってきて、ちょっと考えて、殺したジョンじゃなくて「要するにこれが悪い!」と鉄の玉座を燃やし尽くして、ゲームオブスローンズという物語はきれいに終わる。
 ドラゴンは喋らないが、あのシーンで「要するにこれが悪い!」ってセリフが聞こえなかっただろうか。俺は聞こえた。ちょっと考えてる間の取り方とか最高に良かった。

 奴隷解放とか革新的なことを口にしながら実行しながら、騎馬民族に売り飛ばされた娘から最強勢力にのし上がったデナーリスは登場キャラ中では最強の出世頭だし(個人的にはスケール小さいけどサー・ブロンもかなりのものだと思うが)、その後のジョンとの関係から言っても明確に脚本上の一番太い柱だと思うが、なかなか、他がついていけない部分もあって困ったねって話。
 グレイワームがミッサンデイに「あの人が鉄の玉座に座ったら俺たち多分用無しだよね」と言った気持ちも分かろうというもの。デナーリスはデナーリスで自覚なき猛烈回転を繰り返す車輪の一つなので終わった後は距離を取った方がいい。正解。

 海外ではデナーリスが暴虐覇王のドラゴンライダーと化してキングズランディングを燃やしたとことか非難が多かったらしいけど(またいやらしいんだ絵ヅラが。一般市民の子供とかお母さんとか死ぬの。明らかに空襲を意識している)俺は充分にデナーリスは狂王の血筋入ってるの伏線張られていたと思う。支離滅裂で何かと偉そうで思い通りにならないと癇癪起こすわがままさんで、ついでにドラゴン持ち。軍隊も強い。
 バカに刃物とはよく言ったもの。手が着けられない。
 そうなるのは分かっていたというか、そうならなかったらおかしいでしょ逆に。何を期待していたの君たちは? という気もするが、長く付き合ってきた視聴者もまた一人一人が狂王である。視聴者に足りないのは軍隊とドラゴンだがアンサリードばりに団結したりドスラク人ばりに暴れ回ったりするところもありおっかないですね。
 俺はああいう複雑かつ支離滅裂かつ暴発気味なキャラは好きです。
 サンサと仲悪くてにらみ合ってる時に、間に座っているジョンが「俺のいないとこでやってくれねえかな」ってなってたのも好きです。君らもうちょっと丸くなってください。
 ティリオンが「嘘も方便って言葉知らねえのか」ってジョンにキレてたけど、同じキレ方しなきゃならん人たちが七王国の名家にはたくさんいるので頑張ってください。

 もっと色んな話を書こうと思ったのだがデナーリス回りで終わってしまった。その3とか書くかもしれない。もうちょっと言いたいことあるので。

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