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読書感想文って難しいよね。

 私は家族親戚以外、ほとんどの知人に小説家であることを言っていません。なんなら家族であっても、直接話したことがあるのは母親だけである気がします。身内の間ではいつの間にやら母伝いに広まっていました。そのうえ母の友人にまで知られています。私の友人は知らないのに。
 絶対に秘密にしたいというわけでもないのでそこら辺は別に構わないのですが。そんなふうに、作家であることを内緒にしている私も、とくに親しくならないであろう行きずりの人には時たま気まぐれにぽろっと「小説家です」と話すことがあります。行きつけにするつもりはない美容院の美容師さんとかね。
 ちなみに「小説家です」と言うと、今のところ十割の確率でまず鼻で笑われています。まあそれも別に構わないんですけども。

 そんな感じで身分を明かしたとき「小説家だから得意だろう」という理由で読書感想文の上手な書き方について訊かれたことがありました。その方のお子さんがどうにも苦手だそうで、コツを知りたいとのこと。私は唸りました。
 実は私も読書感想文が大の苦手なのです。今も昔も。学生時代、一番嫌いな宿題がそれでした。そもそも私は活字を読むこと自体得意ではなかったのです。今でこそ小説を書いたりしていますが、まともに本を読みだしたのは高校三年生のとき。それまでは自主的に読んだ小説など、両手で優に数え足りるほどでした。
 高三で何を思ったか突然読書に目覚めてからは、それほど多くはなくとも「読書好き」を名乗っていい程度には読んできたと思います。それでも私は感想文が苦手です。どうやって書けばいいかさっぱりわかりません。

 自分の本の感想をエゴサーチすることがよくあります。SNSだったりレビューサイトだったり、時にはファンレターで、多くの本好きさんが感想を残してくれています。それらを読むたびに「みんな感想書くの上手いな!」と感心してしまいます。作品の内容を簡潔にまとめるのも、抱いた感情を言語化するのも皆さん本当に上手。反して私はどんな面白い本を読んでも「めっちゃよかった!!!」しか出力されないポンコツ野郎です。
 もちろん作者としては「めっちゃよかった」をひと言貰えるだけで十分踊り出せます。本当にそれだけで嬉しいのです。
 でも宿題の読書感想文をそのひと言で済ますことはできないですよね。定められた分量を書かなければいけないのに、どう書けばいいかわからない。よって九割がまとめ方の下手くそなあらすじもどきを書いた、感想文と言っていいのかわからない代物に仕上がる。それが私の読書感想文でした。

 この宿題って長年毎年あるわりに「書き方」をきちんと教えてくれる人が少ない気がします。少なくとも私は教えられたことはありません(私が聞いてなかっただけの可能性もなきにしもあらずですが…)。
 読書感想文が無駄であるとは思いません。本を読むこと自体もマイナスにはなりませんし、語彙力や思考力などを伸ばす役割もあるでしょう。ただ、道しるべもなく書けと言われるだけでは、私のように苦手意識だけを植え付けられて何も身に付かないまま終わる人も少なくないのではないでしょうか。
 個人的には、せめて小学生の内は、問いかける形で宿題を出してもらえると書きやすいんじゃないかなと思います。まず「あらすじを書きましょう」それから「印象に残った登場人物は?」「印象に残った一文は?」「その理由は?」などなど。プラスで自由に書ける欄があったりして。そんなふうに道しるべを作ってもらえると少しずつ書き方を覚えて、そのうち道しるべを自分自身で捉えられるようになり、自由に書けるようになるんじゃないかなと思います。私はそうして欲しかった。コツさえ摑めばきっと書くのが楽しくなりますしね。

 作家として、いち読書好きとして、本好きな人が増えて欲しいです。
 読書というものをどういうふうに捉えているかは人それぞれです。私としては、キャンプだったりサーフィンだったり、手芸だったり料理だったり、そういう個々の趣味のひとつとして気軽に読書を楽しみたい、楽しんでほしいと感じています。無いなら無いで生きていけるけど、あると日々が楽しくなる、みたいな。
 私自身は読書感想文という宿題に嫌な思い出しかないですが、この宿題をきっかけに本を読むのが好きになる人もいると思うんです。普段本を読まない人にも本を読んでもらえるのだから、マイナスではなくプラスに働く機会になると嬉しいですね。
 文章を書くことが好きになる人も増えると素敵です。

おまけ・中高生の読書感想文におすすめの小説

・ぼくは勉強ができない 山田詠美(新潮社)
・雲は湧き、光あふれて 須賀しのぶ(新潮社)
・詩羽のいる街 山本弘(KADOKAWA)
・つばさものがたり 雫井脩介(KADOKAWA)
・はるか遠く、彼方の君へ 安澄加奈(ポプラ社)

 個人的におすすめする作品です。新品の紙の書籍では手に入りにくい作品もあるかもしれません。その際は電子書籍を利用したり、図書館で探してみてください。


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