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俺のねえちゃんは変わってる。
別にダサいとか根暗ってことじゃない。
とにかくマイペースで掴みどころがない。
華の女子大生って、もうちょっときゃぴきゃぴしているもんなんじゃないのかと高校生の俺としては思う訳で。
でもなられたらたぶん引く。

大学が家から近いから、ねえちゃんはまだ実家暮らしだ。
俺の隣の部屋がねえちゃんの部屋。
壁が薄いからお互いの音が丸聞こえ。
好きなアーティストの曲を気持ちよさそうに歌っているのも丸聞こえ。
俺がテスト週間だろうがお構いなし。
何気にめちゃくちゃ上手いから怒るに怒れない。
歌の仕事とか目指すのって訊いたら、興味なーしって言ってた。

ベッドに横になってたら壁の方から音がする。
いつもねえちゃんは俺を呼ぶとき壁を手のひらでばしばし叩く。うるさい。
ある時ムカついたので、トイレのノックも手のひらでやんのかよって言ったら、そんな失礼なことする訳ないじゃんって真顔で返された。
それ以来俺はねえちゃんにあれこれ言うのを諦めた。
届くように少し大きめの声で返事をしたら、見てほしいものがあるから来てと壁の向こうから声が聞こえたので、分かった、と返した。
だったら自分で来いよ、なんなら見てほしいものもついでに持って来いよと思うけどそれは自分の中にとどめておく。

ノックして部屋に入ると、テーブルの上にねえちゃんお気に入りの丸い刺繍ピアスのコレクションが並べられていて、その隣でねえちゃんは腕組みをしながらうんうん唸っていた。

「大学の友だちがね、なんか図書館で一目惚れしちゃったんだって。そんでおしゃれして私に付いて来いって言うんだよね。断れなかったんだよ〜」

全くもって乗り気じゃないくせに、ねえちゃんは意外に押しに弱い。

「それ全部ねえちゃんのお気に入りだろ?好きに選べばいいじゃん」
「たまには男である我が弟に選んでいただこうかと」
「文句言うのなしな」
「おーけー」

糸が巻きつけられてつやつやころんとしているピアスをしゃがんで眺める。
いつか部屋に入った時よりコレクションが増えたような気がする。

「また増えたんじゃねーの」
「そりゃあーテンション上げていかないとやってられませんからなー。可愛いからどんどん集めちゃうね」
「はいはい。じゃ…これ。この黄緑で行ってきてください」

何だかんだで、いつものねえちゃんのままでいてほしいと思う自分がいる。
この人には甘ったるい香水もばさばさしたまつげも似合わない。

選んだものを指差してやると、ねえちゃんはありがとと言って黄緑色のピアスを耳朶に着け、ジャケットを羽織ってとても満足気な表情で出掛けて行った。
白のカットソーをデニムインした、いつものねえちゃんらしい格好だった。

アクセサリー作家:mii
『刺繍糸のころん』

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