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ぼくの家は花屋さんをやっている。
お父さんはお花や肥料を仕入れに行ったりする力仕事とか、お金の計算をしたりお客さんと電話をする仕事をしていて、お店にお花を買いに来るお客さんとお話しするのはいつもお母さんの仕事。
よく来てくれるお客さんはぼくのことを知っているから、お母さんが忙しそうにしている時はぼくが代わりにお花の場所を教えてあげたりする。
この間の日曜日、おばさんがミモザの切り花を買いに来た時にもそんなことがあって、お客さんが帰ったあと、おばさんはにこにこしてぼくの頭をなでて、さすが花屋さんの息子だねってぼくのことを褒めてくれた。
よく見たらおばさんの服のブローチにはミモザが縫ってあった。

今週おばさんはおじさんと一緒にお店に来てくれた。
今年一番に仕入れたミモザのお礼に来てくれたんだって。
おばさんはお母さんとすごく仲がいい。
お母さんがお店の裏から戻ってくるとおばさんはお母さんの方に行っちゃって、お店の入り口には、迎えに来たぼくとおじさん二人になった。
行っちゃったね、っておじさんの顔を見上げて言ったら、おじさんはなんだか困った顔で、行っちゃったなあって笑ってた。
たくさんの花や植木鉢であんまりよく見えなかったけど、向こうでおばさんはお母さんに何かプレゼントしてた。
二人がどんな顔をしてたかは分からなかったけど、おばさんの笑い声とお母さんのありがとうって声が聞こえた。
おばさんがお母さんに何をあげたのかおじさんにきいたら、それはお母さんに自分できいてごらん、としか言ってくれなかった。

お母さんに言われておじさんとおばさんをお店の外までお見送りした。
お店から離れると、あんなにいっぱいだったお花のにおいが急にしなくなる。
おじさんとおばさんは少しかがんでぼくの頭を撫でてくれた。
おばさんは、もうじゅうぶんやってくれてるけど、お姉ちゃんをよろしくねって言って、今度はイチゴのケーキを買ってきてくれるって約束してくれた。
おじさんは今度ぼくにお花の名前の覚え方を教えてほしいって言ってたけど、ほんとかな。

戻ったらお母さんがお店の入り口で待っていてくれた。
ありがとねってお母さんはぼくに言った。
それからぼくが気になってることを知ってるみたいに笑って、ぼくの前でしゃがんで、どうかな、って髪の毛を耳にかけて見せてくれた。
お母さんの耳たぶにはお花みたいな小さな木のイヤリングがついていた。
今までイヤリングをしているところも指輪をしているところも見たことがなかったから、ほんのちょっとだけどきどきした。すごく似合うと思った。
お花みたいで花屋さんのお母さんにぴったりだねって言ったら、これからたくさん着けるわ、ってすごく嬉しそうに笑った。
おばさんの笑った顔そっくりだったから、きょうだいなんだなって思った。
そっくりっていいな。
ぼくと弟もそっくりになるかなってきいたら、それは産まれてこないと分からないわねって言って、お母さんはぼくのほっぺたをなでた。

ぼくはもうすぐお兄ちゃんになる。
お兄ちゃんになるんだから、お母さんのお手伝い、もっとがんばらなきゃ。
早く弟に会いたいな。

アクセサリー作家:käsi
『木の花』


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