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こんなにも自分たちが祝福されるとは思ってもみなかった。

ずっと前に作ってあげた、あの子お気に入りのパンをモチーフにしたピアスがこれまで大切に使われていたということも、周りのひがみやっかみのせいで祝いの席にしかめっ面で出掛けていた美人なあの子が、みんなの前で私のことを思いっ切り抱き締めてくれたことも、心の底から嬉しかった。
最高の結婚式だった。
テーブルの向こうの棚の上にある写真立てに収まった二カ月前の自分達と、左手の薬指に嵌まるリングを交互に見比べて、自然と笑みが浮かぶ。

あの子もこの夏、結婚する。
姉として、目一杯祝福してあげたい。

春とは言えど、夜の冷え込みは冬の名残を感じさせる。
厚手のカーディガンを羽織り、ほかほか湯気の上がる白のマグカップを両手で包み込むと、冷えた腕がじんわりと手首から温まっていくのを感じた。
ホットミルクはやっぱり落ち着く。

普段ほとんどアクセサリーを使わない私だけれど、妹の式で着けて行くと決めているピアスがある。
マグカップをテーブルに置いて棚に向かう。
写真立ての横にある木製の小さなアクセサリーケースは、蓋の上部がガラスになっている。
見下ろすと、数少ないアクセサリーの中のそれが、ケースの真ん中に来るように仕舞われているのが見える。

ころんとした、一見色の少ないピアス。
瑠璃紺色の生地に柔らかく花が浮かぶ様が、まるで妹のようだと思った。
とても控えめで、決して目立とうとはしない。
けれど、とても優しい子。

いつか誰かにあの子を見つけて欲しい。
ずっとそう思っていた。
だから、あの子から婚約したと聞いた時は涙が出るほど嬉しかった。
数多ある花の中からあの子を見つけ出してくれた彼には本当に感謝している。

彼女「が」いい。
彼女「だから」いい。

そう彼は照れ臭そうにはにかんでいた。
彼はきっと、あの子を大切にして幸せにしてくれる。

随分前から安心し切っているけれど、またほっとした。
ホットミルクのおかげもあって、心地よくぼうっとする。
そろそろ寝よう。よく眠れそうだ。
寝相の悪い夫は私の場所を空けておいてくれたままでいるだろうか。

小さな木箱の滑らかな縁を左手でなぞり、淡い白でまとめられたビーズやスパンコールに、真っ暗な夜空の流星を重ねた。
マグカップをシンクに置いて寝室に向かう。

二人が沢山の人に照らされますように。
沢山の人に祝福されますように。

そっと心の中で呟いた。

アクセサリー作家:kanori
『流星』

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