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「あの子が結婚か。嬉しいね」

間に合って良かった、と彼女は目を細めた。
写真家をしている同い年の幼馴染は、鳥みたく世界のあちこちを旅しては、現地の風景や人、町並みなどをたくさん写真に収めている。
まさか帰ってきているとは思わなかったので、急に名前を呼ばれて腕を掴まれた時は、危うく往来の真ん中で大声を出すところだった。

「私の時はエアメールだったのに。びっくりして心臓が止まるかと思ったわよ」
「ごめんごめん」

えへ、と笑う彼女の耳元では、翼を広げた刺繍の鳥と赤い木の実のようなビーズがふるふると揺れている。

気付いた頃からずっと彼女の耳にはあの鳥がいる。
黒と茶色混じりの艶々とした両翼を風の流れに乗せて軽やかに飛んでいるかのようなそれ。
一緒に旅をしているようで好きなのだと教えてくれたのを、今でも覚えている。
彼女の相棒。
腕を掴まれた時、出掛かった声を咄嗟に呑み込めたのはあの鳥のおかげなのだ。

「それ見たらあんただってすぐ分かったし、あんたが帰ってきたって実感した」

私の視線が何を指すのか分かったのか、彼女は優しい目をした。
目が潤む。

「そのイヤリング、明日も着けて来て。あの子にも見せてあげて」

お願い。
そう言うと、幼馴染はあやすように私の頭をぽんぽんと叩いて、了解です、と笑った。

私達姉妹よりずっと長く時間を過ごしているあのイヤリングが羨ましい。
それでも、私達に彼女の帰りを実感させてくれるのもまた、彼女と一緒に旅するあの鳥と木の実なのだ。

アクセサリー作家:むらやまゆかり
『お気に入りの木の実』

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