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とられてしまったと思った。

いつかそんな日が来ることは予想していたし、そうなってくれればいいとずっと願っていたのに、そのいつかがこんなにも自分の心を掻き乱すとは思ってもみなかった。
プロポーズされたことを私に告げる彼女は、嬉しいような、それでいて少し困ったような顔をしていた。
私の気持ちなんてお見通しだったんだと思う。
改札の向こうに消えてゆく後ろ姿を見送ってひとり帰る夜道、私は子どもみたいにわんわん泣いた。
わんわん泣いて、心からおめでとうと言えなかった自分を思い出して、もっと泣いた。

好きなものを好きって言えるって、素敵だね。

あの子が私にそう話し掛けてくれたのが始まりだった。
はっきりした物言いをする私のことが羨ましいのだと彼女は言った。
控えめだけどとても優しい彼女が大好きになった。
恋愛ではなく、友愛という意味で。
砂糖菓子みたいであったかいアクセサリーだねと彼女が褒めてくれたこのシーグラスのピアスは、私のいちばんのお気に入りになった。
閉じ込められた小さな押し花が彼女のようで、着けたら自分も優しくなれるような気がした。

今日は晴天だ。
あの子の門出を祝うのにふさわしい、良い天気だ。

耳には、海を感じるあのお気に入りのピアスを着けて来た。
あの子にもう一度、心からおめでとうを言いたい。
もう言ってくれたじゃない、ってあの子は優しく笑うだろうけど。
今は彼女の幸せが自分の事のように嬉しい。

集まった人々も、皆素敵に着飾っている。
簪を挿した着物姿の女性は、懐かしい学生時代の同級生だ。
あの子のお姉さんの隣にいる、鳥のイヤリングを着けたあの女性は誰だろう。
主役はあの子だから!と、ぎょっとした顔の人たちに向かって笑いかけていた。

あたたかな柔らかい風が私のスカートを揺らす。

誰もがあの子を、扉の向こうの新郎新婦を今か今かと待ちわびている。
白を身に纏ったあの子は、きっと誰よりもきれいに違いない。

アクセサリー作家:fuchiko.accessory
『海のカケラ』

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