見出し画像

40歳で、脚本の勉強を始める。

半年ほど、オンラインのシナリオ制作講座を受けていた。

映画監督の三宅隆太さんが開催していた「マンガ家のためのプロット講座」というもので、ベーシックコースから受講を始め、先週ようやく、エキスパートコースまで修了した。

私はこれまでも時折、ゲームや映画のシナリオを書いてきたが、ずっと我流だったこともあり、体系立ててメソッドを学んだことはなかった。一度、どこかで理論を整理してみたいと思っていたところに、ちょうど講座開催の知らせを耳にした。三宅監督の著書「スクリプトドクターの脚本教室」は愛書だし、メディアで拝見する三宅監督の、理路整然とした語り口から想像するに、講座も得るものが大きかろう‥と思い、時間を作って参加してみることにした。

結果として、これは大きな財産になった。シナリオ制作の、実践的な技術論という意味でも有意義だったし、加えて、メンタル面、特に「自分というリソースを使って、シナリオを書くこと」への大きな後押しとしても心に響いた。

講座の内容は、テクニック論を語る側面と、メンタルコーチングの側面が混在していて、特にメンタルコーチングは、半ばカウンセリングのような色合いがあった。(そのあたりの洞察の深さは、三宅監督が映画監督かつ、心理カウンセラーのご経験もあるところに根ざしているのだろう)講座の内容も、その両者を常にゆらゆらと往復するような話運びだった。

この講座を通じて、シナリオを書くという作業が「書き手個人の、人生のストーリー」と、いかに不可分なものかよくわかった。作者自身の人生が、シナリオの内容に反映されるのはもちろんだし、逆に、シナリオを書く作業が、書き手の人生に影響を与えることもある。書いていくなかで、自分の人生の出来事を俯瞰で捉えることができて、人生を考える道標を得ることもある。執筆するシナリオと、書き手個人の人生は、互いに波紋を送りあい、影響しあっていくものなのだ。

我々は普段から、世の事象をストーリーとして捉えることに慣れている。もはや自分の人生すら、ストーリーとして再構築した方が、起きていることを正しく理解できるのだろう。(漫画家の島本和彦先生がかつて「作品に最も影響されるのは、作者自身だ」という旨のことをおっしゃっていたが、その理由がこの機に分かった)

* * *

私の好きな映画のひとつに、「シェフ ~三ツ星フードトラック始めました~」という作品がある。

2014年のマイベスト映画

アメリカ西海岸の一流レストランで総料理長を努めるシェフが主人公。彼はレストランオーナーと運営方針について対立し、レストランを辞めてしまう。だが、その後、彼は移動式フードトラックに乗り込み、安価なキューバサンドイッチの販売を始めたところ、そのおいしさから、SNSを中心に好評を博し、店は大繁盛、その後、彼は料理人としてのキャリアを取り戻していく…という話だ。南米の日差しを感じる明るい音楽と、ユーモア、展開の小気味よさ、人々の優しさが相まって、人生を肯定してくれる名作だと思う。

この映画で主演・脚本・監督を務めるジョン・ファブローさんは、当時、「アイアンマン」の監督をはじめ、製作費200億円を超えるような大予算の映画の監督ばかりを続けていた。その過程で、情熱を注いで仕事をしても、最後は自分のコントロールできない資本主義の論理に飲み込まれてしまう苦しみを、ずっと味わっていたのだろう。「アイアンマン3」の監督降板後に作られた、この「シェフ」という映画は、それら大作映画の10分の1程度の予算で製作され、ファブロー監督自身が最終的な決定権を持ち続けられる体制で作りきった。「シェフ」は公開当時、小規模なインディペンデント系の映画だったが、内容の素晴らしさから好評を得て、口コミを呼び、公開館数も急増し、大ヒットとなった。

ここまでお読みになって分かる通り、ファブロー監督自身の物語と、映画の中のストーリーが不思議なほどに重なっている。作品と、作り手の人生が、互いに波紋を送りあった結果に生まれた、とても美しい物語だ。もしかしたら、脚本を書き上げた日のファブロー監督は、この映画がヒットする、確信めいた予感を抱いていたかもしれない。作者自身が物語に感化される形で。

* * *

私が、これまでに出会った映画や小説など、素晴らしい作品も、きっと、そのときの作者の内面を色濃く反映していたのだと思う。心の叫びを吐露するからこそ、それは観客の共感を呼ぶ。私も、自分で描く物語のなかで、めいっぱい叫ぼう。そうすれば、きっと誰かに届くだろう。

三宅監督の寄稿がwebで読めるので、貼っておきます。脚本執筆がもたらす療養的効果について触れたもの。

三宅隆太「脚本療法という考え方」

サポートも嬉しいですが、フォローしていただけるのが何より嬉しいです。よろしければ