見出し画像

広汽ホンダから学ぶ、海外現法でのフィロソフィー浸透

今回、紹介する本は2010年に発行された「中国市場で成功する人材マネジメント」です。著者は本田技研工業・長銀総合研究所、ワトソンワイアットなどで経験を積まれた人事コンサルタントである町田秀樹氏です。
中国における人材マネジメントの重要点をあげ、経験豊富な著者の視点で、中国で戦う日系企業に対し示唆を与えています。
広汽ホンダ・カネボウが中国でどのような人材マネジメントに取り組み、
成功を収めてきたのか、当時の幹部・社員へのインタビューを通して、
詳しく解説してくれています。
10年前に書かれた本ですが、まだまだ同じ悩みをもった日系企業が多く、2020年の今でも学びの多い一冊です。
今回は、この本で書かれている広汽ホンダのフィロソフィーの浸透について
フォーカスして紹介していきます。

広汽ホンダの成り立ち

広汽ホンダは1998年7月に仏国プジョーが中国から撤退した際、その工場と中国人社員をホンダが引き継いで設立された会社で、本田技研工業と広州汽車集団との合弁企業です。
平均月収が日本よりはるかに低い当時の中国で、日本よりも高い価格で販売したアコードが車種売り上げランキングで常に上位に位置付けられていました。みずほ総研の資料によると、98年の中国都市部の1人当たり可処分所得は、5,425元とされており、当時の為替レートは1元=15.8円だったため、日本円で換算すると約85,000円程度。
当時は、「中国で国産高級車は売れない」というのが常識だったそうです。テスラの国内産高級車が上海中を走り回っている今では想像も出来ない状況ですね。
撤退した企業の資産を引き継ぎ、最高品質の生産体制を構築し、
中国のマイカーブームに火をつけた広汽ホンダの成功要因は
高いビジョンを示し、ホンダフィロソフィー(経営哲学)を徹底的に現地で実践し、浸透させたことにあると著者は言っています。

最初に取り組んだ「出入口プロジェクト」

撤退したプジョーの工場を引き継いだ広汽ホンダの最初に解決すべき課題は
すさんだ従業員の意識改善・モチベーション向上でした。
そこで、まず最初に取り組んだ施策が、働きやすい職場環境をつくるために、掃除を励行する「出入口プロジェクト」でした。会社の設立記念式典後に、総経理であった門脇氏が「新会社の初仕事は掃除です。入れるところと出すところは私の責任、その間は皆さんの責任で掃除をしてください」と発言したところに起因しています。
「入れるところ=食堂」「出すところ=トイレ」この2つは門脇氏が改善するので、生産現場については社員が掃除するようにという指示です。
まずは、幹部専用の食堂などを撤去し、社員と幹部が一緒に食事をとれる大きな食堂など、誰もが利用できる福利厚生施設も建設しています。
生産ラインについては、日本にはない「三不主義」という、広汽ホンダ独自の考え方を導入しています。

【三不主義】
・自工程で不良品を作らない
・前工程から不良品を受取らない
・後工程に不良品を流さない

この三不主義に基づき、生産機械のオーバーホール、工場建屋のリフォームなどでクリーンな工場を作りだしています。
そのほかにも、中国自動車業界初でメーカー特約販売店を全国に展開し、顧客サービスの拡充に努めたことで顧客の心を掴んだと言われています

ホンダフィロソフィーの徹底した刷り込み

【ホンダフィロソフィー】
「人間尊重」と「三つの喜び」を基本理念に、社是・運営方針で構成されたホンダで働く人共通の価値観、行動や判断の基準です。
https://www.honda.co.jp/guide/philosophy/

フィロソフィーを謳うだけでなく、三現主義(現場・現物・現実的)に基づき、駐在員が率先して体現し、人材マネジメントの仕組みの中に組み入れることで徹底的に刷り込んでいます。本書では具体的にフィロソフィーを身に着けていくステップが紹介されています。

・STEP1「理解」
新入社員には入社時研修に加え、各配属現場でフィロソフィーの学習会が行われ、徹底してフィロソフィーは何かを理解させます。
・STEP2「自分事」
フィロソフィーを十分に納得し、自分の言葉で他人に説明する。
・STEP3「行動」
フィロソフィーを日常の職場で少しでも実践することを推奨され、この段階では更に若手へ伝承することも求められます。
・STEP4「自己評価」
フィロソフィーの理解度・実践度を20項目からなるチェックリストを使いセルフアセスメントを実施します。

特にSTEP2の「自分事」は、広汽ホンダだけでなく、オールホンダ(特に管理者)で取り組まれており、自分の言葉や経験エピソードでフィロソフィーを語ることが、現在も変わらず求められています。

広汽ホンダが徹底して浸透させていたフィロソフィー、実は日本のホンダフィロソフィーをそのまま移植したのではなく、中国の環境や価値観に合わせて中国バージョンに若干変えています。
例えば、ホンダフィロソフィーでは「人間尊重」としている表現を、広汽ホンダでは「個性の尊重」と変えています。
これは言葉の表現と意味合いの面で、中国人により正確に考え方が伝わるようにと工夫したものです。
その他にも社是・運営方針についても中国化している点がいくつかるため、詳しく知りたい方は「中国市場で成功する人材マネジメント」をお読みください。

純白の作業衣に込められた想い

画像1

ホンダと仕事をしたことがある人は、誰でも知っているかと思いますが
工場や研究所では社員全員が純白の作業衣を身に着けています。
白だと汚れが目立つため、常に清潔を心がけることも目的の1つですが、
ホンダフィロソフィーの人間尊重の中の「平等」に基づき、
職位や職制を表すものを廃止し、社員それぞれの考えや発言を大事にしていくという想いを実践したものです。
国籍に関係なく、社員は誰でも自分のアイデアが尊重され、
具体化されることに働きがいを感じるという人間尊重の考え方に沿って
マネジメントが行われています。
本田宗一路は、「人を感動させるものは、金や設備ではなく思想である」と語っており、その考えが今でもホンダの強みの根幹です。

今回、紹介した「中国市場で成功する人材マネジメント」では、フィロソフィーだけではなく、広汽ホンダの人事制度や、カネボウの事例なども細かく紹介されているため、ご興味ある方は、是非読んでみてください。

画像2


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?