赴任前に必ず読んで頂きたい一冊 「中国人のやる気はこうして引き出せ」(後編)
著者は1996年にイトーヨーカドーが中国進出をした際の初代中国室長で、セブン&Iホールディングス役員やデニーズジャパン代表取締役を歴任した故塙昭彦氏です。
イトーヨーカドーの中国進出から躍進させていった著者の経験から、中国を含めた諸外国に赴任して起業するときの、リーダーの基本的な考え方や行動、心構え、現地の人々とどう接するべきかが描かれています。
時間の流れがとても早い中国で、約25年前の経験が描かれた本など役に立つのかと言われそうですが、日本人がアジア・中国で働くうえでは、今も通じるとても大事なメッセージが多く、赴任前に是非一度、読んでいただきたい一冊です。
4.「中国人を育て・教える」
日本人が変わらなければ、中国人も変わらない
イトーヨーカドーが中国に進出した当時、中国ではまだ国営企業が中心で、国営企業は倒産しないと当時の中国人は思ってた時期です。
この感覚こそ、ビジネス失敗の出発点にあると考えた著者は、「イトーヨーカドーは民間企業であり、ビジネスがうまくいかなければ倒産してしまう」ということを徹底的に教え込みました。
「自分は誰から給料をもらっているのか。」
「なぜ、会社の仕事を頑張らないといけないのか。」
分かり易く何度も言い続けることで、身体に染み付けることが重要です。
理解してもらえるまで、同じことを何度も何度も言い続ける。
とても根気のいる作業ですが、中国人は理解すれば行動変化は速いのです。
押し付けではなく、腹の底から理解してもらうために、研修においても工夫を凝らしており、その一例がサービスの意味を理解させる研修です。
現地採用社員でチームを作り、実際にスーパーに買い物に行ってもらい、不満や嬉しかったことを議論をしてもらうようなアクションラーニングに取り組まれています。
「叱る」ときも同様です。中国人を叱るときは、個別に呼んで、個別に叱ります。じっくりと、なぜ叱るに至ったのか、その理屈を語ります。言わなくてもわかる、なんてことはあり得ないのです。
このように教育をしていると、「日本の方が進んでいる、中国は遅れている、だから教えてやろう」という上から目線が芽生えてきて、理論も理屈もなく、とにかく命令を聞けといったスタンスの駐在員が増えていきます。
結果、当時のイトーヨーカドーでも多くの退職者を出してしまっています。
駐在員も中国のことを何も知らない、だからスタッフから多くを教えてもらわなければならない。
「私たちも教えるけど、彼らも私たちに教える」
そんな風に自分たちが、頭を切り替えなければいけないと言っています。
5.中国人を評価し、マネジメントする
成果主義でなければ、中国人は頑張れない
この章には当時のイトーヨーカドーが中国で実践してきた報酬・評価制度の運用について注力・注意していたことが述べられています。現在では若干変わっている点もあるので、そっくりそのまま自社で活かすことは難しいかと思いますが、普遍的なことはやはり今でも変わっていません。
例えば、「結果を出せばしっかり評価し、報酬や職位で報いることが大切。但し、昇進させるときには、しっかり人間性を見極めなければならない」などは今でも全く変わりません。
実力があって一生懸命頑張る人。そういう人材を抜擢するのは当然で、それが会社の風土や文化を創っていく。目の前の条件に関係なく、ここにいた方がよいと思えば、中国人とて簡単に転職することはないと言っています。
私も人事のお手伝いをすることが多いのですが、工場エリアなどで近くに外資の給与が高い企業が進出してくると、退職しても仕方ないと言われることが多いですね。しかし、その前に自社の人事評価が公平・納得感のある運用がなされているかというと、かなり改善の余地があります。まずは、自社で納得感の高い、人事評価を実践されることが退職防止に繋がります。
6.中国で結果を出す
何より、正しいことをせよ
イトーヨーカドー中国本社には社是として3つの言葉を掲げていました。
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【三感の実践】
・感動する商品、売り場
・感激する接客、サービス
・感謝する心情、礼節
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感動や感激があるから、人生は豊かになる。
そんな「三感の実践」にあふれる人と店を作りたいという想いを実践するためには、お客様の要望に応え、お客様の理想形に近づける努力を、毎日一歩ずつ積み重ねていくこと。これこそが、商いの原則だと述べています。
当時のイトーヨーカドーでは「お客様が感動する売り場とは何か?」この問いを中国人スタッフが必死に議論し、毎日毎日変化のある売り場を作っていたそうです。見えないところでも、真剣に努力すれば、お客様に感動を与えられる、その経験が更に次の議論のモチベーションとなり、より理想的な売り場を生み出していく。まさに「三感」が実践された職場ですね。
最後に「利益など求めるな。人を育てれば、それは勝手についてくる」と
メッセージを残しています。
中国進出にあたり、短期的な利益を求めるのではなく、人が育つからこそ、売り上げ・利益も生まれ、組織も大きくなる。
著者が中国においてきたのは、日本で学んだ最新の流通小売りテクニックだけでなく、人を採用し育て、相手のことを思い、人間として立派になる。
人として成長することこそ大事であり、生きる上での本質である。
この考え方を中国に育んできたと言っています。
この考え方は、日本発祥ではなく、2500年前に孔子によって説かれている
中国発祥の考えかたで、古く日本が中国から学んだ考えを、文革を経て忘れられている今の中国にお返したと締めくくられています。
中国で働くにあたり、当たり前の考え方が述べられている本ですが、
実践できている駐在員がどれだけいるのか?あまり多いとは言えません。
駐在員は決して暇ではなく、毎日多忙を極めます。
だからこそ、ぶらさない考え方の軸をもって、日々の行動で示していくことが必要です。この本は、そんな考え方の軸に示唆を与えてくれる一冊です。
是非、駐在前にお読みいただくことをお勧めします。
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