Self liner notes #08 empitsu
幼少のemmaの家庭には居間に1台のTVがあり、チャンネル権は主に兄が持っており、ひとしきりの歌謡番組は見て聞いていた。なんで中途半端な編成のストリングスなのかと不思議で(ストリングスはオケのものだと思い込んでいた)、歌詞のテロップを見て、大人はなんで好きとか愛とか恋とかばかり考えているのだろう、と呆れていた。
いざ自分がそういう感情に振り回される年頃になると、現実の自分の行動はさておき、表現としてなかなかラヴソングは手強い。照れ臭さが何かと上回る。でもシンガーソングライターなら一つは欲しいコッテリラヴソング。
まず「emmaなりの」ラヴソングっぽいメロディを探した。気持ちよくてわかりやすくて、でも自分らしいソレ。もうちょっと高いキーでモヤモヤっと生まれて、途中でアイディアが断絶してしばらく、数ヶ月放置。あ、これか、と勝手に解決してからは1時間かからずに終えた。
歌詞は手強いラヴソングだけに全く手を出せずにいた。「きみ」「ぼく」と普段用いない人称を見つけ、自身から解放して彼らに語らせることにした。出来上がってみたら、相手を思って頭の中で勝手こじらせる従来からの自分が描かれていた。鉛筆のモチーフは偶然だが、シャープペンシルが苦手で、現在頻度の高い筆記具ではある。
作った1曲を通していざ歌ったら、自分の思惑と違くてがっかりした。個々はお気に入りの服なのに上下のコーディネイトが合っていない、みたいな。キーを一つ下げたり、ピアノの刻みを変えたり、歌詞を直したり、脱いでは着て鏡を見る作業を繰り返す。
録音時も実はアルバム中最も問題児だったとの鈴木博文プロデューサー。暴れる問題児ではなく、何を考えているのかわからない子。曲順は8曲目だが、仕上がったのは末っ子。詞曲の朴訥さに寄り添っているアレンジのような気がする。諸事情でスタジオでしばらく眠っていたトイピアノを最後に入れて、その空に向かって柔らかく突き刺す可憐な響きが「もうこれでいいよ」と背中を押してくれたような、気がする。
もし「empitsu」がTVから流れて歌詞テロップを見たら、幼女のemmaにやはり呆れられてしまうのだろうか。そんなifはあるわけないのだが。
ライヴは
2023/06/10(土)
open 18:30 / start 19:00
コチラ→ emma mizuno LIVE「Amorphous 404」
配信アリます。
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