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懺悔とそのカケラ

整番は後半の方だったが、押されに押され気付いたら10m先にメンバーがァッ!!!という距離まで来ていた。近い、とても近いぞ。

ここまで来たらアレをゲットせずして帰るわけにはいかない。今日まで追っかけてきて、未だ手にしたことがないアレ。

そうそれは、メンバーが投げたピック!!!

アンコールの曲が終わったあと一瞬だけゲリラ握手会が開かれたが、その間も私は程よい距離を保ち待っていた。

「ここは箱だ、デッカいコンサート会場じゃない。彼らは必ず投げてくれるはず。」

そう思っていたらやはり投げてくれた。よっしゃ!と思っていたのも束の間。四方八方投げてくれたのに、キャッチしてキャー!!!とか全然そんなの出来なかった。程なくしてメンバーたちは裏へはけていった。

キャッチできた人をはじめ、握手した人、そうでない人もどっぷりと余韻に浸かっている中、隣にいた方が「ここら辺にあるはず...」と言葉を漏らしていた。なぬ、聞こえてしまったぞ?

「ここら辺ですか!?」と思わず食いついてしまった。「こっちに来てませんか...?」と言われ、急いで目線を落とす。すると私はすぐに見つけてしまった。左斜め前に、赤い小さな、三角形のアレ。

うわぁぁああ!!!ある!!じゃん!!!私は急いで拾い上げた。

「あっ...」と、僅かに気まずさを感じた瞬間だった。

その過程を知らない他の方が「写真撮らせて下さい!」と声をかけてくれた。私は拾い上げたピックを手のひらに乗せて写真を撮られていた。

一瞬の出来事すぎて誰のものか把握できていなかった。私は、手を広げたまま「これ、誰のやつ、ですかね?」と問う。すると最初の方が「多分よっちゃんさんの...。」と教えてくれた。しばし沈黙。

声を掛けてくれた方は「まあ、落とし物に届けてもあれだし、貰っちゃっていいんじゃないですか?」と、手のひら全体でピックと私を指し示した。そりゃあ、そうよねえ。_またもや沈黙。

写真を撮った方は気付いたらどこかへ行ってしまい、ここら辺にあると言った方との気まずい空気が流れ始めた。

「めっちゃ欲しい...。」そう言っていたが、それは私も同じである。簡単にハイ!どうぞこれ!と渡せるような代物でもない。

アハハ...と歯切れの悪い返事をし何となく目線を床の方へ落とす。2個目を探しています、の感じ。都合よくもう1つ落ちているとは思っていなかったが、気まずさに耐えられずキョロキョロしまくった。もちろん落ちてはいなかった。

そして、探している感じのまま何となく離れていった。さりげなく背も向けた。ステージの方へ写真、写真撮りに行こう。

人が写りこまなさそうなタイミングを見計らい1、2枚シャッターを切った。一息ついて恐る恐る振り返った。

多分...もういない。急いで帰ろう。左手でピックを握り締めたまま会場の外へ出た。

少し雪の降る夜道を、罪悪感と闘いながら早足で歩いていった。

あの時ここら辺にピックがあると言った方へ。歯切れの悪い返事をしてしまいすみません。さりげなく逃げてすみません。じゃんけんして決めよう!とか言えばよかったな、と後悔しています。心が狭かったな。

ひっそりとやりすぎてこんなnote届かないかもしれないけれど、いつか、届きますように。

2024-2-23

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