アクリル絵の具を使った、アナログ(手描き)イラストを考える・描く・塗るまでのプロセス
先日、ご依頼を受けてイラストを描く機会がありました。
イラストやデザイン制作の過程をまとめて見ることが好きなので、自分でもまとめてみよう! …と思い、まとめてみます。
細かなデッサンや彩色の方法など、技術的なことはあまり参考にならないと思いますが、参考にご覧いただければ幸いです。
打ち合わせ&ラフスケッチ
今回描いたのは、関西で活動する劇団『プラズマみかん』の次回公演『シルバー・ニア・ファミリー』のチラシイラスト。
まずは作品のあらすじなどを教えていただいてイメージを膨らませて、お打ち合わせでイラストの方向性をすり合わせ。
次のキーワードが浮かび上がってきたので、これらをもとにイラストの構想を練り、ラフスケッチを描きました。
走る(逃げる、追う)
老若男女
運動会
ラフを2案作成
作成したラフは、大きく分けると2案。同じモチーフを横から見た構図と、正面から見た構図です。
文章でそれぞれの構図のねらいなども追記しました。
個人的には正面から見た構図のほうが面白い(人物の表情がわかる・チラシとして目立ちそう)のではと考え、その意見も含めてご提案。
劇団のかたがたからも正面から見た構図がよい、とのお返事をいただきましたので、正面を向いた構図で進めていくことになりました。
下書き
ラフの内容をさらに練って、下書きを作成。
ラフではかなり平面的な構図でしたが、一点透視図法を使って奥行きあるイラストにしました。ふだんは遠近感のない平面的なイラストばかり描いているので、ちょっぴり大変でした…。
劇団のかたに下書きをお見せしたところOKをいただいたので、この下書きをもとにイラストを描くことになりました。
まずは本番のケント紙へ、下書きの線画を清書します。
下書きを清書する前に、紙を水張りする
ちなみに清書用のケント紙は、清書の前に水張りという作業をおこなっています。
水張りとは、絵の具の水分で紙がベコベコに歪んでしまわないよう、あらかじめ紙に水を含ませて膨張させて固定する手法のこと。
ふだん趣味の絵を描く時はこの工程をスキップすることが多いのですが(時間がかかるので…)、今回は見栄えに影響しないようにきちんとおこないました。
水張りの方法
YouTubeにわかりやすい解説動画がありましたので、よろしければご参考に。
水張りに使う道具
必要な道具は、次の通りです。
画用紙を張るためのベニヤパネル
水張り用のテープ
水を含ませる大きめの筆
ベニヤパネルは画材屋さんに行くといろんなサイズがあるので、描きたい絵の大きさに適したサイズを買うのがオススメ。
水張り用のテープは、幅や色などに種類があります。
わたしは30mmくらいのサイズのテープを使いました。描く紙の大きさににあわせて、サイズを決めるのがよさそう。
下書きを清書する
下書きを描いている紙の裏を濃い鉛筆(6Bなど)で塗りつぶし、ケント紙に被せ、下書きの線をなぞります。
するとカーボン紙と同じ要領で、清書用の紙に下書きの線が写ります。
そのままだと線の太さが均一になりがちなので、線の太さを調整して緩急をつけたり、細部を書き込んだり、細かなパースの狂いもあわせて修正したりと、下書きをブラッシュアップします。
全体的に構図を右にずらし、バランスを取ってケント紙に清書します。
着彩に使う画材と道具
アクリル絵の具(ターナーアクリルガッシュ)
今回のイラストは厚めの塗りで仕上げたかったので、アクリル絵の具を使用しました。
アクリル絵の具は乾くと不溶性になるので、下地の色を気にせずに塗り重ねることができます。
鮮やかな発色が好きで、絵を描く時にはアクリル絵の具ばかり使っています。
メーカーはターナーアクリルガッシュを愛用。
アクリルガッシュには他にリキテックスもありますが、ターナーの色数の多さが好きです。
ちなみにアクリルガッシュは厚塗りはもちろんのこと、水を多めに含ませると水彩風にも描ける柔軟性もあります。
パレットはラップで代用
パレットにはラップをかけて使い、塗り終わってからラップのみ丸めて捨てています(先述の通り、アクリル絵の具は乾くと取れなくなるので)。
これは『色彩王国』という技法書でイラストレーターの田中久仁彦さんがされていたアイデアをみて、真似しました。使い捨ての紙パレットなどもありますが、家にあるものですぐに代用できるのが便利です(^^)
色彩王国について、詳しくは後述します!
写り込んでいる水差しは中学生の頃から使っているもの。アクリル絵の具の取れない汚れがたくさん…。
絵筆は主に3種類を使用
主に使った筆はこの3本。
右の平筆で広い面積(空や地面など)を塗り、真ん中の丸筆で中くらいの面積や細かな箇所を塗り、左の面相筆でさらに細かな箇所を塗りました。
平筆と面相筆はフランス旅行中にセット販売されていたものを購入・丸筆は画材屋で購入しました。
真ん中の丸筆は今回のために新調しました。おそらく6号サイズだと思いますが、そこそこ広い面積も、細かなところも一本で塗ることができて、とても使い勝手がよいです。
いざアクリル絵の具で着彩!
色を塗る時は全体のバランスをみながら、全ての箇所を同時進行で着彩していきます。
まずは下塗り
人物が多いので一通り色をつけるだけでも時間がかかっていますが、まだまだ序盤です。
空を黄色にして、地面は茶褐色系にしました。地面の主張が強すぎるなあと感じたので、後ほど色を変更しています。
全体的に塗り重ねていく
さきほどの絵から全体的に塗り込んだもの。細かい箇所も描き、潰れてしまった主線を色鉛筆で描き起こしています。地面も灰色系に変更しました。
具体的な完成図が見えてきました。
細かな書き込み・ハイライトを追加
細かな箇所の書き込みをおこない、ハイライトを入れて完成。
細部の仕上げ方によって完成度が変わる…と思っているので、気になるところがなくなるまで手を入れます。
最後にハイライトを入れると人物の表情が変わり、色味が締まって「仕上がった〜!!」という感じがするので好きです。
スキャンして取り込み、色を調整
家の複合機でスキャンできるサイズよりもやや大きめにイラストを描いているので、部分的にスキャンし、Photoshop上で合成。印刷に使うデータなので、解像度は300dpi以上、CMYK形式で作成します。
スキャンした画像は原画の色からかなり変わってしまいます。違ってしまうのは仕方がないので、なるべく原画のイメージに色味を近づけつつ、データ上で色の調和が取れるよう調整します。
完成データを納品して、わたしの作業はいったん完了。ドキドキしながらデザイナーさんがチラシを仕上げてくださるのを待ちます…。
チラシの完成
ロゴなどの文字情報がレイアウトされ、デザイナーさんのお力により素敵なチラシが完成しました!
※プラズマみかん公式サイトより引用しております。
アナログ(手描き)イラストとデジタルイラストの違い
今回描いたようなアナログイラストは画材などの準備に手がかかりますし、失敗してもすぐに直せないのがネック。でもそれが偶然の産物を生み出すことがありますし、実際に画材を使い手を動かして色を重ねていくので、「絵を描いている」という実感があり、とても楽しいです。
デジタルイラストはソフトとパソコンがあればすぐに描けるのが特徴。
アナログイラストと比べると色味などが調整しやすく、何よりデータとして扱えるので、デザインなどの二次利用がしやすいです。
ちなみにデザインに使う簡単なイラスト素材を自分で作る場合、わたしはほぼ99%デジタルで描いています。Illustratorでアンカーポイントを打ってベジェ曲線を作っていくのも楽しくて好き。
イラストを描く過程では、色を塗ることはもちろん、最初の「考える」過程に重きを置いています。アナログイラストでもデジタルイラストでも、それは変わりません。
作成するイラストの用途や個性によってアナログ・デジタルどちらが表現としてふさわしいか考え、うまく描き分けていきたいです。
アクリルガッシュで絵を描くならオススメしたい良書『色彩王国』
記事中でも触れた『色彩王国』について。
20年以上前の本ですが、第一線で活躍されているイラストレーターさんのアナログ作画のメイキングをたくさん見られる良書です。
わたしも読んだ当時、アクリルガッシュで絵を描くことに憧れて今に至り、いまだに手元に置いています。
オンラインではまだ手に入るようなので、ぜひ読んでみてください!
ちょっと宣伝
劇団プラズマみかんの第10回演劇公演『シルバー・ニア・ファミリー』は2018年4月7日(土)〜4月8日(日)まで、大阪市天王寺区にある浄土宗應典院にて上演されます。
今回も明るく社会派なお話になる?ようで、今から楽しみです!
ご興味をお持ちの方はプラズマみかんの公式サイトにアクセスして、あらすじなどご覧くださいませ(^O^)
外部サイトへ移動:プラズマみかん第10回演劇公演「シルバー・ニア・ファミリー」 | プラズマみかん
この記事は、個人サイトに投稿していたものをnoteに移管しました。