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あじさい①

わたしの一番好きな季節がやってきた。

桜が散って、肌寒い雨の日と夏のような暑い日が交互にやってきて、風が心地よい晴れの日が続く今の季節

夕飯の買い物帰りに感じた風に、そんなことを思った。

近所のみかんの木の葉がさわさわと揺れている音がたまらなかった。

自分が今こんなことに幸せを感じているのが不思議な気分だ。


半年前、子どもが流れてしまった。

二回目だった。

一回経験していたから、出血を確認したときに少しは覚悟が出来ていたつもりだった。

病院で先生に子供の心拍の音が確認できないことを優しく伝えられたときは、泣きたくても泣けなかった。

診察が終わって、トイレに入ってから声を殺して泣いた。

これが現実なんだ、受け止めなきゃ、

『ごめんなさい…ごめんね…』声にならなかった。

こんなにも幸せと不幸を感じる場所はない。

幸せそうに大きなお腹を抱えて待つ人と、

もう動かなくなってしまった我が子がまだここにいる人が隣同士座っている。

正気ではいられない。

『なんでわたしだけ、わたしだけ…』

神様なんているわけない。





『けいりゅうりゅうざんはこのまま赤ちゃんが自然に出てくるのを待つことも出来ますし、手術をすることもできます。どうするかは家に帰って、ゆっくり考えてください。』

先生はそう言っていた。

わたしは、あまりのお腹の痛みに耐えきれず、薬を飲んだ。

それは赤ちゃんがもう死んでしまっていることを自分自身で思いしらせる行為だった。

夫はわたしからの電話で、珍しく仕事を切り上げて迎えに来てくれた。

何も言わないで、腰をさすってくれていた。

でも、その掌が小刻みに震えているのが伝わってくる。

家に帰ると、

『お疲れ様、ゆっくり休んで』と布団を敷いてくれた。

わたしは深い眠りについた。





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