国際金融制度改革の必要性2

一応売り物として出していますが、書いた以上、読んでもらわなくては意味がなく、そして旬の時期というのもあると思うので、ここで公開してしまいます。もしまとめて手元にあってもいいな、という方は購入していただけると幸いです。



1. アメリカ同時多発テロについて
この事件は、アメリカニューヨークに建つ世界貿易センタービルという、アメリカの象徴とも言える建物へのテロを含んでいた為、アメリカの繁栄に対する怨みが込められていたと推測できるが、一体なぜ、ということについては今以て決して明らかになっているとは言い難く、その直接的な原因を特定することは難しい。それはその背景が単純な経済問題にとどまらない、根深い問題を含んでいるからである。それを解明する為に、まず他の2機が目標としたペンタゴンと、政治の中心地ワシントンD.C.を手がかりとしてみたい。
まずはペンタゴンに関する安全保障問題から考えてみる。安全保障とは非常に厄介な性質を持っており、自衛力以上の力を持っていれば、それは論理的に、任意に設定された何らかの敵に対する軍事力であると定義せざるを得なくなる。つまり、敵を設定することなしに自衛権をこえた安全保障というものは成り立たないのだ。ところが、第二次大戦後の世界秩序の大きな枠組みであった東西冷戦体制が崩壊し、明示的な敵を設定できなくなったことで、ペンタゴンには、余剰となった戦力の存在意義を打ち立てる為に何らかの敵を設定しなければならないという、その存立に関わるような重大なテーマが浮かび上がっていた。そこで、アメリカは冷戦終結後、湾岸戦争、コソボ紛争、ソマリア出兵と、次から次へと敵を設定して、その安全保障の存在意義を示そうとしており、そんな中で起きたのがこの連続テロ事件だった。
自爆テロである以上当然犯人も死んでしまっており、本人達の口から直接その動機を聞き出すことはもはやできず、それは推測によるしかない。それは、敵の設定を至上命題とするペンタゴンにとっては非常に使い勝手の良いものだったとも言え、この事件は非常にご都合主義的に利用されるようになる。パイロットがアラビア語を話していたことからアラブ系の犯人像が浮かび上がり、そこからイスラム系過激派グループアル・カーイダの存在がクロースアップされ、それを匿ったということでアフガニスタンのタリバン政権が標的とされ、アメリカを中心とした有志連合によるアフガニスタン戦争へと突入していったのだ。
ここには様々な矛盾がある。まず、アフガニスタンのタリバン政権は当初アル・カーイダのウサマ・ビン・ラディンを匿っていることを否定していたのにもかかわらず、それに対して一方的に有志連合を結成し有無を言わさず攻め込んだ、ということがある。結果としてこれは、安保理決議に基づく集団的自衛権の発動と言うことになり、それで広い理解が得られたとされる。タリバンとアル・カーイダの関係については確かにそれ以前からの話の流れはあり、実際ビン・ラディンも後にアフガニスタンで殺害されるのだが、それでもテロリストという明確には定義できないものを匿っていたというその時点での言いがかりで戦争を仕掛けるというのは、国連憲章によって定められた(先制攻撃の禁止という観点からの)自衛権の解釈を大きく変えるものであり、現在でも議論が続いている問題である。これは、国連が国家間紛争解決の為の組織で、非国家組織であるテロリストに対しては何ら有効な手段を有していないことを意味し、それに対して相手が何者であれとにかくテロリストだと定義してしまえば先制攻撃ができるという大きな事例を作り出してしまったことになる。上記の安全保障というものの本質を考えると、これによって相手が国だろうが、集団だろうが、個人だろうが、誰でもテロリストだと認定し、敵であると定義すれば武力行使ができてしまうと言う、非常に恐ろしいロジックが生まれたことを意味する重大な画期であったと言える。
また、アル・カーイダは多くの国に拠点を持っており、その中でアラブ系の犯人像に当てはまるアラビア語圏ではなく、仮にテロリストを匿っていたとしてもテロには直接関係ないだろうと考えられるアフガニスタンを名指しして攻撃したことに問題はなかったか、ということがある。これにより、アル・カーイダの拠点を国内に持つ他のアジア・アフリカ地域の国々は、テロリストを放置したという理由だけでテロを受けた国から集団的自衛権の発動で攻撃されるリスクを抱えることになり、ただでさえ国内治安の問題からテロリストの問題にはナイーブにならざるを得ないのに、そこに更に他国からの圧力がかかることによって、逆にテロリストグループを追い詰め、強硬化させざるを得なくなるようなこととなり、それ自体が世界の不安定要因を作り出した。だから、テロとの戦いは、目立たなくなったとは言え今でも延々とくすぶり続けており、簡単には収まるようには見えない。
この問題の解決の第一歩には、集団的自衛権を伴う対テロ戦争という理屈を禁止する必要がある。国であれば、いずれか他の国から認められ、そして国連のような組織に加盟することで共通の議論のベースに立つことができるが、テロ組織というのは一方的な認定であり、どこかの国が何らかの組織を一方的にテロ組織であると認定し、自衛権を発動して攻撃したり、あげくに集団的自衛権を伴って共同で他国に攻め入ると言うことまで可能にしたら、戦争への理由付けは簡単にできるようになってしまう。相手がテロ組織であれなんであれ、一方的に超法規的に処断するような仕組を作ることは許されてはならないのだ。
いずれにしても、結果だけ見れば、犯人達の意図、主張は何であれ、ペンタゴンはこの連続テロ事件を奇貨として、被害者の立場を十二分に生かして自らの権益拡大に成功した訳で、一番利益を得た者が犯人であると言う理屈を適用すれば、ペンタゴンが犯人であったと言うことになってしまう。テロリストが誰であれ、自爆テロによってテロリスト的な勢力が支持を得たかと言えば、ISILのようなものはできたとは言っても、広い支持を得たとは言えないし、そもそもそれ自体どちらかと言えば対テロ戦争の結果生まれてきたようにも見て取れる。却ってテロを拡大させる為の対テロ戦争だったとしたら、マッチポンプであったという非難は免れないであろう。

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