情報の効率的拡散のために

情報拡散の現状

完全情報に近づくほど市場がうまく機能するというのは、ミクロ的に選択肢が増えるということから明らかではあるが、一方で情報量が増えれば処理能力の限界からその中から必要な情報を選び出すのにコストがかかるようになる。そこで、現実社会では、経済的功利主義を基本に据えて、利益インセンティブに基づいて競争的に情報取得を図らせることで、経済的な擬似完全情報に近づけそれによって資本の最適(?)配分をはかるという経済的、というよりも金融市場の最適化が図られているのだと言えそう。しかしながら、金融市場の最適化が図られたところで、財市場などの他の市場の最適化が図られるのか、と言えば、それは全くの別問題であり、ケインズの理論的にみてもLM曲線の最適化がIS曲線に影響するなどということは導き出せないだろう。つまり、金融市場においてどれだけ完全情報に近づけたところで、それが金融以外の市場(それは財市場に限らず、労働市場であったり、サービス市場であったりというようなものがありそうだが、全てがうまく分析されているとは言い難い状態にあるのではないか)最適化の役に立つかと言えばそんなことは全くないのだと言える。

バランスを欠いた金融市場一辺倒の完全情報化

ここから言えるのは、まず金融市場の完全情報化というのは、おそらく他の市場に比べて突出し過ぎており、それ自体が全体の情報のバランスを崩して完全情報状態を妨げているというパラドックスを発生させているのではないか、ということがある。客観的完全情報というのはあり得ず、完全とは、すなわちミクロの関心にあった情報最適配分ということであると言え、それを金融情報を鍵とした情報配分に偏らせることで、ミクロの関心自体がとりあえずカネ、という、情報と金融の近接化がひどくなっているのではないかと言える。本来的には情報に金融フィルタをかける必要は全くないのだが、それがまず儲かるか否か、どれだけ安く手に入れられるかで最初に振り分けられるというのは、あまりに情報の偏りを発生させ、それは明らかに情報の完全性を阻害するものだと言える。

交換に基づく情報市場による情報最適化

ついで、個別の関心に合わせた情報最適化の仕組みがまだまだ整っていないのだと言える。これはさまざまな市場の中でそれぞれの市場での需給の最適化を図るためには、金融市場の完全情報化よりも、情報市場というものをいかに整備するのか、ということの方が重要になるということを意味しそう。現状、市場というものは、財市場を念頭に、貨幣による交換という形式が一般的に想定され、そこに利益の確保という鍵を据えることで金融情報の完全情報化による市場形成が図られているのではないかと言えそうだが、貨幣、利益ということを介することなく、直接情報を軸に交換がなされるということを想定すれば、金融市場よりも情報市場の整備の方がはるかに重要になりそう。そこにおいて、市場というものを、利益という一般的指標を介することなく、個々人の関心に合わせて活発に情報交換がなされる場であると定義すれば、利益主導型の金融市場とは全く別の市場イメージが現れてきそう。つまり、市場とは、経済的効率性のための場ではなく、交換の場、すなわちコミュニケーションの場であると考えることができるのではないだろうか。

個別需給から形成される市場イメージ

そう考えると、市場というのは一般的に存在するというよりも、個別の需給があって、その集合体として次第に個別の市場が形成されると考えた方が良いのかもしれない。それは、利益が鍵となっている状態ではなかなかイメージがしにくいのだが、ネットワークと個別交換との遷移過程のようなものだと言えるのかもしれない。つまり、個別需給の情報があり、それがネットワークの中でのコミュニケーションを通じて最適な需給マッチングを探るというような中長期的プロセスが市場であると考えることができるのかもしれない。それは、金融市場のようなスポット的需給取引成立のための完全情報実現というあり方とは正反対であると言え、需給それぞれの側でなるべく完全と言えるような情報を整えてゆくことでベストマッチングに近づいてゆくという、受動的完全情報形成から能動的情報完全化へと考え方を変えてゆくことによって実現されるものなのかもしれない。

情報分配の最適化をもたらすオープンな情報交換市場

利益要素を鍵から外すことで、情報に対する競争であるとか、排他性、秘密主義のようなものを廃し、なるべくオープンな情報交換にしてゆくことで市場が広がるようになってゆくのではないか。つまり、有益な情報を多く出せば、それに対するレスポンスも多くなって、結果として個別の完全情報の範囲が広がってゆく、という、主体的な完全情報の拡張プロセスが市場でのマッチングを活性化させるという環境形成がなされるのではないだろうか。このプロセス形成により、情報拡散というのが、押しつけではなく、なるべく摩擦を極小化し、必要な情報が必要なところに届くような、情報分配の最適化が図られる市場が構築されることが期待できそうだ。

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